「慎ましき映画」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス あんどぅさんの映画レビュー(感想・評価)
慎ましき映画
この映画の面白ポイントは一種の慎ましさだったと思う。
若年性リウマチを患ったモード・ルイスが、自立のために漁師として働くエベレットのもとで住み込みの家政婦として働くようになるが、そのまま結婚し生涯を共にする。
モードは病気のために、エベレットは育った環境のために、不器用な一面を持っていて、2人とも大多数の「人々people」と折り合うのが苦手。
モードはエベレットのそうした不器用な一面をいち早く見抜いて魅力を感じ取っている。だから、なのかはわからないが、モードは彼にひどい扱いを受けながらも彼のもとに居続けた。
この映画には、著名な画家、若年性リウマチ、暴力など様々な話題性のあるテーマが潜んでいる。映画を見る前にネット上に転がっていたあらすじを読んでいたのだが、それを読む限り、病気を患ったか弱い女性が、厳しい環境の中で絵を描き続け、やがて認められ幸福な人生を送る、という(物語としては)ありきたりな展開が予想できた。
しかし実際には、そういったキャッチーなテーマはほとんど強調されない。たしかに彼女の振る舞いには病気の影響が見られるし、最初から絵が売れたわけではない。彼女は普通の人が望む環境より厳しい環境で生きている。しかし、それが脚色され強調されるわけではない。この映画は、ただ彼女のあり方そのものを描こうとしている。彼女自身と同様に、この映画も慎ましさを保持している。
この映画は素晴らしい。
キャッチーなテーマを見せれば、万人に分かりやすくなるし、商業的には成功しやすい。そうした分かりやすさのアンチテーゼとして、分かりにくい映画を撮ることもできる。だがそれはどちらもいい方法とは言えない。重要なのは、映画が描く対象(今回はモードルイスの生き様)の本質と、映画そのものの特性とが共通していることだ。いい表現は、内容と形式が一致するものだから。
この映画にはそうした本質がある。慎ましき人を描く慎ましき映画。
とはいえ、そんな素晴らしい映画を慎ましいの一言に還元しようとする僕の感想に重要な意味などかけらもないので、ぜひ映画を見ていただきたい。