「2人の世界、つましさにほっこり…」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス エミさんさんの映画レビュー(感想・評価)
2人の世界、つましさにほっこり…
カナダの小さな港町で暮らしたモード・ルイス。幼い頃からリウマチを抱え、一族からは厄介者扱いされながらも、死ぬまで生涯に亘って、そこに息づく人々の暮らしや動物を美しい四季の中に織り込み、素朴ながらも色彩溢れる愛らしいタッチの絵画を描き続けた。今や、カナダを代表する画家として名を連ねているが、その人生は決して順風満帆なものではなく、様々な悩み事を背負いながら強靭な精神力で生き抜いてきた結果であった。
モードルイスの絵画は知っていたものの、彼女については知識ゼロで、ただただ、役者の魅力に惹かれて観賞したのだが、サリー・ホーキンスの演技は抜群で、エンドロールで流れるモード本人のわずかな映像を見るだけでも、その人柄や生き様を熟考し、よく練り抜かれたものであることが伝わってきた。顔色を伺うような上目遣いの表情。もどかしい時の爪を噛む仕草。筆を持っている時の内に秘めた高揚感。臆病で不器用でもあるが、好き嫌いはハッキリしていて自由に生きたいと願う強さも兼ね備えている言動。…等々、彼女の表現する全てが素晴らしかった。
生きているうちに人は、いろんなしがらみを背負わされる。その中にあって自由な精神を貫くことは簡単ではない。ハンデがあることも特別だし、自由を愛して信念を追い求めることも特別なことだ。モードも『特別な』たくさんの荷物を背負って生きた特別な存在の中のひとりだったんだなぁ〜と、あらためて思い知らされました。
のちに夫となるエベレットや、彼女の才能を受け入れた最初の客であるサンドラを始め、モードの才能や人柄に触れて、周囲が変化していく様子も、良くも悪くも間接的に皆がどこかしらで相互作用を及ぼしている様子が伝わってきて、「人の営みってこういうもんだよなぁぁ」って思ったし、モードとエベレットの不器用な関係性や、のんびりとした港町の雰囲気は、時にゆっくり、時にもどかしく、そのつましさがほっこりとした気分にさせてくれて、観る者に人間らしさを思い出させてくれるところは、この作品の良さだと思いました。