「シブリという魔法を失っても、ひとりじゃなかったんだ」メアリと魔女の花 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
シブリという魔法を失っても、ひとりじゃなかったんだ
スタジオジブリの制作部門解体後に創設された、スタジオポノックの長編第1作。「借りぐらしのアリエッティ」「思い出のマーニー」の米林宏昌監督らジブリ出身者が数多く集い、宣伝コピーも「魔女、ふたたび。」と堂々掲げています。
当然宮崎駿監督「魔女の宅急便」をはじめ、ジブリ作品と比較されるのはほとんど宿命。予告編が公開されるや「ジブリっぽさ」を揶揄やゆする声も見受けられますが、ジブリファンが米林監督に期待していることは、シブリの正統な継承であること。その期待に100%答えてくれて、劇中でも「魔女の宅急便」のような導入部と「天空の城ラピュタ」のような舞台。「千と千尋の神隠し」のカオナシ、「ラピュタ」のロボット兵など、随所にジブリとよく似たキャラや設定を散りばめて、ファンの期待に応えてくれていることが嬉しいです。
初号試写に先立ちもシブリで真っ先に行われた試写を見た高畑監督と鈴木プロデューサー(宮崎監督は試写を拒否)は、「ジブリの呪縛」から解けていて良かったと感想を述べたそうです。「ジブリの呪縛」とは、説教臭さだと鈴木プロデューサーは言います。そういえば、米林監督作品の好きなところ、宮崎監督が作品のなかで色濃く主張してきた、環境原理主義や自身の懐古趣味的な話がなくて、とってもピュアにファンタジーを語るところです。
特に小さなお子さんでも、すぐに主人公に共感できて夢中にさせる本作は、夏休みに家族で見に行く映画にぴったりの作品でしょう。
物語の主人公のメアリ(声・杉咲花)は、11歳のとっても元気な女の子。赤毛、青い瞳、そばかすが特徴。好奇心旺盛で天真爛漫だが、何をしても上手くいかず不満と不安を抱えている。田舎の赤い館村にある大叔母の屋敷で暮らすことになった彼女は、知り合いもなく、何だか空回りして身の置き所がなかったのでした。
そんなある日、黒猫に導かれるように入っていった森で、光を放つ青い花をみつけます。たまたま庭にあったほうきにその花の花粉がかかったとき、ほうきはメアリと黒猫を乗せてふわりと舞い上がり、メアリをどこかに連れて行こうするのでしした。
あとから分かったことは、森で見つけたこの花の名前は、7年に1度しか咲かない魔女の花「夜間飛行」というもので、普通の人間でも一夜限りで、魔法が使えるようになるのでした。
ほうきで雲海を突き抜けた先には、天空に浮かぶ魔法世界の最高学府「エンドア大学」がありました。奇妙な住人たちが織りなす、カラフルで奇想天外な情景は、米林監督ならではの世界です。
校長に新入生と間違われたメアリは、魔女の花の力で魔法世界の大学で有望な魔女ともてはやされるようになります。実は魔女の花はかつて魔法世界の大学で魔女に盗まれたものでした。
物語が大きく動くのは、メアリが魔法大学の校長(同・天海祐希)と魔法科学者(同・小日向文世)の野望に気づくことから。2人は魔女の花の強大な力を利用してかつて犯した過ちを繰り返そうとしていたのです。同時にメアリが、魔女の花を持っていたことも校長にばれてしまい、メアリはおびただしい魔法世界の住人の追っ手から逃げる、一大逃走劇となります。
メアリは魔女の国から逃れるため、呪文の神髄を手に入れてすべての魔法を終わらせようとしますが、その時メアリは魔法の力を失ってしまうのです。メアリが魔法ではなく己の力で立ち向かわねばならないと悟るところに勇気づけられました。
でもメアリは決してひとりではなかったのです。相棒のほうきや黒猫、それに村の少年ピーター(同・神木隆之介)をはじめとする村の人々、さらには最初に登場する魔女の花を盗んだ魔女との意外な繋がりが、魔法を失ったメアリを助けて、強力な魔力を有する校長の陰謀と対峙していくのでした。ストーリーには、科学で魔法をコントロールする驕りというテーマも。
この作品の魅力としては、校長たちが身を置く不思議な世界もいいけれど、それ以上に、メアリのひたむきな姿をいとおしく描くところが素敵です。
また生身で実感できるダイナミックな表現をブレーキをかけず思い切り貫くところもいいです。もっとほうきで空を飛ぶ場面に浮遊感を求める意見もありますが、演出過剰だと嘘くさくなる危険も。だからこそ、この作品は絵空事で終わらぬ実感覚があると思うのです。それは、現実世界の鏡ともなりえます。魔法に頼らずに前へ進もうとするメアリは、ジブリを離れて歩み出した米林監督にも重なります。前途したメアリ1人の力だけで戦うのではないというストーリーは、米林監督と西村プロデューサーのシブリからの独立の決意が込められていると思います。でも、二人のなかには、師である宮崎監督が培ってきたものがぎっしりと支え手になっていることはありません。ノボックというスタジオ名にはゼロからの出発という意味が込められているそうですが、独立後の3年間、宮崎監督がこだわっていたように手書きにこだわって、書きためた100万枚の原画を描ききった情熱には、きっと宮崎監督が精神的なバックボーンとなったいたことでしょう。決してメアリのようにシブリというアニメの魔法を失っても、ひとりではなかったのです。
さらに、躍動的なヒロイン、そしてメアリに寄り添う黒猫や動物たちの確かな存在感に、思わず共感してしまうことでしょう。ただ生真面目な米林演出は、安定感があるけれど、気の利いたユーモアやギャグを入れればもっと映画が弾んだことでしょう。また、両親不在の少女が成長していくという展開はジブリお得意のパターンですが、容姿に自信がなくて不器用なメアリに、もう少し葛藤と対峙していくところがあれば良かったです。
それにしても遠藤憲一はアフレコがヘタでしたね(^^ゞ
何を美しいと思うか。何を伝えていきたいか。米林監督の作り手の思い、そして宮崎監督への感謝の思いがあふれんばかり伝わってくる作品でした。新たな始まりの一本としてぜひ多くのファミリーに見て欲しいと願います。
この作品のためにSEKAI NO OWARIが書き下ろされた、主題曲「RAIN」も素敵です。
♫虹が架かる 空には 雨が降ってたんだ
虹は いずれ消えるけど 雨は
草木を育てていたんだ♫
次の雨の日のために、傘を探しに行こう!と前向きな気分になれますね(^^)