「トレンドは「強い女性」」エル ELLE nagiさんの映画レビュー(感想・評価)
トレンドは「強い女性」
彼女は、寂しかったのではないか。
ミシェル(イザベル・ユペール)は幼少期に父が世界的な凶悪殺人を犯し、逮捕されてしまう。幾度も整形を繰り返し、さらにあまり喜べないような愛人までもつ母には、恥ずかしさをも抱く。この描写はなかったが、親の愛情を充分に受け取らずに生きてきたのではないだろうか。世間に出ても、父親のことで疎まれ、夫とは離婚もした。それでも強く生き、ゲーム会社の社長まで1人でのぼりつめた。決して出来がいいとは言えないものの、大きな息子もいる。
そうやって生きてきたミシェルを襲ったのがレイプ事件の犯人ことパトリックである。不思議にも彼女はレイプされた後も冷静である。やはり、1人で生きてきた彼女にとって、誰かに必要とされるという感覚(それもかなり特殊な状況下の)は、性的オーガズムをも超越する快感だったのだろう。抑圧してきた箍が外れ、捻れた癖を持つようになる。ミシェルは警察に相談することもせず、独自に犯人を探し始める。
しかし、母が死に、息子が結婚して家を出ることになり、元夫は新たなガールフレンドができ...彼女の周囲から親しい人がどんどん遠のいてゆく。そして恋心を抱いていたパトリックが自らをレイプした犯人だとわかった時、彼女は許しがたい想いはあっただろうが、同時に、いざという時に唯一駆けつけ、治療までしてくれ、必要だと言ってくれる彼に多少の幸福感もそこにはあったのだろうと思う。
それでも、彼女はパトリックのこの歪んだ愛情表現は間違っていると指摘した。三度襲われるミシェルだが、息子がパトリックを撲殺することで、彼との歪んだ関係は終りを告げる。
ミシェルは強い女性だった。両親が死に、息子が辛い状況にもなんとか結婚生活を送ろうと奮起し家を出て、彼女のそばにいてくれる人はいなくなった。それでも彼女は正しく生きることを決意したのである。親友にも、正直にあなたの夫と寝たと告白する。
そうしてまた1人、強く生きていくことになったミシェル。最後に傷つけたはずの親友が彼女の元に歩み寄ってきてくれたことは、ミシェルにとっての救いに違いない。
最近のトレンドはどうやら『強い女性』のようだ。『ジャッキー』『ドリーム』『夜明けの祈り』『ワンダーウーマン』そして『ELLE』、女性の参画が随分当たり前になった今、女性の理想像も、この半世紀で変化しているのだ。