「普遍的な夫婦の愛の営み」ラビング 愛という名前のふたり 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
普遍的な夫婦の愛の営み
今年のアカデミー賞は『ムーンライト』『ドリーム』『フェンス』など人種問題を扱った作品が例年以上にノミネートされたが、それらと同等の高評価だったのにも関わらず、冷遇されたのが、本作。
結局主演女優賞ノミネートだけで、それも昨年のホワイトオスカーの余波を受けてのギリギリノミネートだったらしいが、(『ドリーム』はまだ見てないけど)それらの中ではベスト作!
1958年。恋人同士の白人男性リチャードと黒人女性ミルドレッドは、妊娠を機に結婚を決意。が、二人が住むヴァージニア州では異人種間の結婚は法律で認められておらず、それが許されてるワシントンで密かに結婚。ヴァージニアに戻り新婚生活をスタートさせるが、その事がバレ、二人は逮捕され…。
ハイ、もうこういう人種差別に立ち向かうドラマチックな作品は大好物。あらすじを読んだだけで感動的。
しかも、実話。しかも、この夫婦が法律を変えた。
非常に地味な作品ではあるが、名作!
それにしても、何と理不尽で酷い話。
人種差別への偏見が酷いシーンが序盤で。
夫婦は逮捕され、翌日保釈となるが、保釈されたのは、白人の夫だけ。黒人の妻は留置所の中のまま。
すぐ父親が保釈金を払って解放されるが、二人は会う事を許されない。
夫婦の結婚は罪となり、裁判。
判決は、有罪。懲役1年。執行猶予25年。
しかもその間、二人が同じ州に居る事は固く禁じられる。
二人で居たいのなら、州を出るしかない。つまり、州外追放。
本当に、酷い話、酷い時代、酷い法律。
こういうのも何だが、二人が苦境に立たされれば立たされるほど、夫婦の愛が一層固く結ばれ、映画的に面白くなる。
公民権運動の気運が高まり、団体や弁護士の支援で、夫婦は行動を起こす。故郷に戻る。
故郷を捨てて、新天地で暮らせば平穏な筈なのに。
故郷は捨てられないのだ。故郷には家族も居る。
何より、故郷で自分たちの結婚を認めて欲しい。逃げたら、負けだ。
法律は法律だ。この時代、この地では、それが法律だったのだろう。
でも、これが人種間の問題じゃなく、人間同士の問題だったら?
黒人とか白人とかじゃなく、同じ人間として、結婚を許されない。
人の尊厳や自由を奪う法律なんて、もはや法律じゃない。
法律が変わった…いや、夫婦が変えた今、異人種間の結婚に反対していた奴らの顔が見てみたい。
劇中、夫婦が法廷で自分たちの正当性を声高らかに訴える所か、裁判シーンもほとんど描かれない。
夫婦はただただ堪え忍ぶ。
変わらぬ営みを続ける。
だって、何も悪くないからだ。
それが尚更夫婦の正当性を何より訴える。
無骨ながら愛情深いジョエル・エドガートン。
芯が強く、美しいルース・ネッガ。
共に名演。
『テイク・シェルター』『MUD マッド』と小品だが優れた作品続くジェフ・ニコルズの演出もこれまた素晴らしい。
“ラビング”とは、夫婦の性。
その名の通り、普遍的な夫婦の“愛”の物語。
ラストのラスト、夫婦のその後が文字で紹介され、妻の夫への変わらぬ愛に胸打たれた。