「少々画一的だが、法に打ち勝った尊い愛の映画」ラビング 愛という名前のふたり 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
少々画一的だが、法に打ち勝った尊い愛の映画
白人男性と黒人女性の結婚。人種差別がアメリカという多民族国家において、やはり根強く残っていることを感じさせられる物語。特に閉鎖的で保守的な田舎町においては、異人種間の結婚ということが1950年代という時代(そしてそれは決して遠い過去ではない)に、このような捉え方をされて、扱われ方をしたのか、と暫し唖然とするが、なるほど、当時の州法では禁止された結婚。そういった法や制度を動かすきっかけを作った、たった一つの夫婦の物語。
結果的には歴史を変えることになる二人だけれども、当人たちが強い意志を以て歴史を変えた、というのとは少し異なり、当人たちはただお互いを慈しみ合い愛を貫いただけで、歴史や世間を変えようとしたわけではなく、ただ歴史や世間がそれに反応し変化した、という趣がある、こういう描き方は好きだと思った。
個人的に、ルース・ネッガのエキゾチックな美貌にすっかり見惚れた。現在、第一線で活躍する如何なる女優達とも違う存在感のある容姿と妖しさ。映画の中でも無言でスクリーンに映っているだけでも、そして愛する夫を見つめているだけで、何か此方に感じさせるような目をしていて、なんか素敵だった。武骨で素朴で寡黙で男らしいジョエル・エドガートンとの相性も良かったし。
ただなんとなく、終盤に入って二人が取材を受けたりといったメディアとかかわりを持っていく展開や、裁判に臨む姿というのが描かれるようになって、まぁそれが重要なエピソードなのは重々理解してはいるものの、なんだか二人の純粋な愛の物語に俗っぽさが加わるような印象で、あまり快い感覚ではなかった。作り手もやはり映画が法廷劇のようになってしまうのを避けてか、裁判のシーンはあえて描かないやり方を取っていて、確かに愛を裁判で問うのは何か違うと思うので、裁判シーンが省かれていたのは賢明な気がする。しかしその一方で、話が進めば進むほど、次第に「やっぱり裁判のシーンも必要だったのではないか?」と思い始めてきた。彼らが法や制度と闘っている様子は、やはり裁判に顕著だったはずだと感じるからだ。映画が二人の「愛」に焦点を絞っていて、そこに好感を抱きながらも、その分、彼らの戦いがいかに進展しいかに挫け、いかに人々に影響し、人々が彼ら夫婦にどんな影響を与えたか、などが見えにくく感じたのは勿体なかったかもしれない。
それともう一つ気になるのは、この映画の人種差別に対する正義感と愛の尊さに関しての捉え方や表現方法が若干ステレオタイプに思えたこと。同年公開の「ムーンライト」が人種やセクシュアリティなどのシリアスなテーマを詩的ながらも先進的に捉えて鋭く表現していたのを思うと、この映画は聊か画一的な表現に見え、それによって伝わるものが非常に分かりやすい「差別はだめ」「愛は尊い」「旧い慣習はよくない」というこれまた画一的なメッセージに留まって見えたのは惜しい気がした。