「下から見ても横から見ても普通の花火でした…」打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
下から見ても横から見ても普通の花火でした…
時間が巻き戻る不思議な夏の一日と少年少女の淡い恋を描き、93年にTV放映された後に劇場公開もされた岩井俊二監督の名作。
『モテキ』『バクマン。』の大根仁脚本、『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之総監督の異色のタッグでアニメ映画化。
声の出演に広瀬すず、菅田将暉を配し、今年公開のアニメ映画の中でもとりわけ注目度と話題性の高い一作。
かく言う自分も、病的なまでに魅了された大傑作『まどマギ』の新房監督作という事で、非常に気になっていた。
気鋭のクリエイターを抜擢し、青春恋愛×SFで、おそらく東宝としては『君の名は。』路線を狙い、あの国民的メガヒットよもう一度!…までをあわよくば狙っていただろうが…、
蓋を開けてみれば、興行面はまだ未知数だが、どの映画サイトを見ても酷評に次ぐ酷評…。
さて、その率直な感想は…
何やら今年一番の駄作との声まで出てるようだが、そこまでボロクソ言われるほど酷くはないとは思った。
しかしながら、『君の名は。』『この世界の片隅に』『聲の形』など名作続いた昨年のアニメ映画群より魅せられるものに欠けたのも正直な印象。
まず、ストーリー。
岩井俊二のオリジナル版は遠い昔に見たか否か記憶が曖昧なくらいなので、どれほど忠実なのかは分からないが、時間が戻る設定を活かして二度と戻らない青春の日々の切なさ、儚さなどは上々に描かれていたと思う。
もしも、あの時…。
やり直せたとしても、歯車は上手く回らず…。
タイトルにもなっている花火の形も“もしも”の世界のモチーフとして効果的に使われていたと思う。
作画。
これはやはり見事な美しさだった。
日常描写は勿論の事、時折挿入される幻想的な世界。
ついつい『まどマギ』を彷彿させる新房×シャフトの手腕を遺憾無く発揮。
…ただ、
日常と幻想とタイムリープ交錯するストーリーの流れも悪くはなかった。クライマックスもまあ一応。
しかし…、そのクライマックスを受けてのまた日常に戻ったようなラスト。
確かに釈然としないと言うか…。
また時間が戻って何も無かったのか、それともあれも“もしも”の世界なのか。
好き嫌い分かれそうなのはキャラデザイン。
やたらと頬や肘膝がテカり、爆乳先生やスク水、ミニスカ、肌露出しまくりのワンピース…。
萌え~要素と言うより、妙に艶かしく、気持ち悪さを感じてしまった。
釈然としない最たるは、キャラの行動だろう。
一見、もしもあの時…と、タイムリープして自らの判断で動いてるようだが、その実はただ流されているだけ。
運命を自らの手で変えようと行動する『君の名は。』との決定的な違い。
だからこそ我々は、優柔不断な典道と思わせぶりななずなに終始翻弄されっ放しなのだ。
それにしても、アイドルになってもイケると思うと豪語するなずなの小悪魔っぷり…!
可憐でミステリアスで大人びていながら、内には激しい感情。
ツンデレと言うべきか、童○少年がポ~ッとなるのも分からなくもない。
そういや大根仁は監督最新作でも“男を狂わせるガール”を描くね。
広瀬すずの声はあどけなさと色っぽさを感じさせ、悪くなかったと思う。歌声も聴け、広瀬すずファンにとっては堪らない。
が、菅田将暉の声は…、中学一年生の役には合ってなかった。
総じて、まあまあ。
ボロクソ言われる駄作ってほどではなく、昨年の名作群に匹敵する優れた作品ってほどでもなく…。
普通の花火。
やはり新房の斬新な演出に虚淵玄の独創的な脚本が合わさっての大傑作だったんだろうね。
ま、その新房監督には『まどマギ』の新作という特大花火を今もお待ちしてますけどね。