8年越しの花嫁 奇跡の実話 : インタビュー
佐藤健×土屋太鳳が目指した演技の向こう側 役を“生きる”までの道のり
「るろうに剣心」で和製アクションの新境地を開拓した佐藤健と土屋太鳳のコンビが、今度は“究極の愛”を体現する。2人が約3年ぶりに顔を合わせた「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(12月16日公開)は、岡山県のあるカップルに起こった実話を基にした奇跡のラブストーリーだ。まっすぐなまなざしで「健先輩」と呼ぶ土屋と、それに優しく対応する佐藤。温かな絆を感じさせる2人が、当事者たちへの最大限の誠意をもって作り上げた本作への思いを存分に語った。(取材・文/編集部 写真/堀弥生)
物静かな尚志(佐藤)と、勝ち気な性格の麻衣(土屋)。飲み会で出会った2人は自然とひかれあい、1年の交際を経て結婚を決意するも、結婚式目前にして麻衣は発症率が300万人に1人という病「抗NMDA受容体脳炎」に冒され、昏睡状態へと陥ってしまう。回復のめどが立たないなか、尚志は奇跡を信じ、あきらめることなく献身的に支え続ける。数年後、麻衣は奇跡的に意識を取り戻すが、新たな試練が2人を襲う。
「(実際の2人を追った)ドキュメンタリーを拝見して、こんな人生があるんだとものすごく感動したんです。映画化するんだったらぜひ自分がやりたいなと思っていました」と物語との出合いを述懐した佐藤は、相手役が土屋に決まったと聞いたとき「ついにこのときが来たか」と震えたそう。「土屋さんと『るろうに剣心』で初めて会ってからずっと注目して見ていて、どこかでがっつり共演したかったんです。だから、それにふさわしい作品とやっと出合えたなって気持ちでしたね」と運命的ともいえる引き合わせについて語る。
対する土屋は「健先輩には(初共演した)17歳のときからずっと影響を受けてきたので、今回夫婦役でご一緒させていただいて夢のようでした」と顔をほころばせる。しかし、その高揚感は胸の内にとどめ、撮影前に対面した尚志さんと麻衣さん本人に向け、「“お二方のためにこの物語を演じよう”と、クランクインしてからもクランクアップしてからも思っていました」と強い使命感を背負って臨んだ。「決して感動だけではない物語だと感じました。そしてご本人たちとお会いして、今は笑顔でいらっしゃるけど、当時は大変な戦いだったと思います。でもその戦いは私たちには理解しようと思っても不可能な部分もあるし、役作りという言葉もおこがましく感じるほどでした」と胸中を明かす土屋からは、作品の語り手としての真摯(しんし)さが透けて見える。
佐藤も土屋と思いを同じくしていたようで、「芝居なんだけど芝居に見えてはいけない、ドキュメンタリータッチの芝居になればいいなっていう思いでやっていました。具体的に言うと、セリフを言ってるのではなくて会話をしているように見えるように心がけていました」と演技プランについて言及。「実際にしゃべっているときってつっかかったり、しゃべっている途中に考えたりすると思うので、そういうようなニュアンスは気にしました。セリフをテンポよく滑舌よく話した方が作品にとっていいケースもありますが、今回はテンポ感よりも、リアルに振った芝居を目指しましたね」。対する土屋は「私は“何をしよう”とかではなくて、本当に麻衣さんとして生きることを第一に考えて、健先輩と(瀬々敬久)監督とドキュメンタリーのように撮っていました。それも健先輩がすごく色々気遣ってくださって、私が自由な気持ちになってセリフを話せるまで付き添ってくださったからだと思います」と佐藤への感謝を忘れない。
そんな2人に、俳優として大切にしていることを聞くと、「“決めない”ということですね。どういうアプローチの仕方、どういう方法論で役を作っていくのが最善なのかをその都度考えるんです」(佐藤)、「その役として生きることを大事にしています。でも、生きるというところまでいくとやっぱり、すごく苦しい部分はありますね。(キャラクターの)考え方や過去、当然相手役の方とのコミュニケーションもとても大事になってきますし」(土屋)と生真面目な性格がうかがえる答えが返ってきた。
演じるのではなく、さらに上の“生きる”を目指す2人。土屋においては、4時間かけて特殊メイクを受け、さらには過酷な減量に挑み少しでも麻衣になりきろうとあがいた。一方佐藤は、撮影期間の1カ月強、1度も現地を離れることなく生活し、肌感覚を尚志のものへとなじませていった。生々しささえ漂うほどリアルな尚志と麻衣の苦闘の日々に胸を打たれるのは、こうした佐藤と土屋の努力がスクリーンに息づいているからだろう。本作で描かれている“究極の愛”について語る2人の目線は、佐藤と土屋ではなく、尚志と麻衣のものだ。
「大変なことやつらいことはたくさんあったけど、大切な人、好きな人のそばにいられることって、やっぱりそれだけで幸せなんですよね。仮に意識がなかったとしても、2人のシーンはラブシーンだと思う。外からは(目覚めるのを)待っているように見えるかもしれないけど、待っているわけじゃなくそばにいるんです。尚志さんご本人も、“やりたいことをやっていただけだし、逆にやりたいことをやらせてくれた周りの人に感謝している”とおっしゃっていましたが、幸せな日々だったと思っています」(佐藤)。「愛情を積み重ねてきた8年間という時間そのものが、素晴らしいと思うんです。麻衣さんは命をつかむために本当に苦労されてきて、そのことを思うと、(演技中)私の目に映る世界がすごく苦しかった。でも、そういった演技の瞬間でさえ、生きていることが幸せだなとも感じられたんです。それは、やっぱり尚志さんが近くで愛情を注いで、支えてくれたからだと思います」(土屋)。
互いを認め尊重し、演者として高めあう佐藤と土屋だからこそ到達した演技の極致。3度目のタッグがどのような形になるのか、今から楽しみでならない。