ムーンライトのレビュー・感想・評価
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救いがない
Littile(いじめのあだ名), Chiron(本名), Black(本当の自分ではない自分)の三期で語られるストーリー
原作のタイトル
"In Moonlight Black Boys Look Blue"
から、大人になってからのBlack期は、子供の頃 Blueに見えていた「本当の自分ではない自分」
薬で壊れた親より、代わりに優しく接した売人の方が正当化され、自分も売人になってしまうという
救いがない話に感じた
心に残る台詞
Can’t let nobody make that decision for you
自分の意思でBlackになったけれど
ラストで友人に告白したのは
Chiron だった時からの本当の気持ち
Chironは穏やかな気持ちで終わるが
観ている方はもやもやが残る
Blackの中にも色々な違いがあること、ステレオタイプ的に認識しがちなBlackではない中間色があることに気づかされた
そうするしかないどうにもできない辛さ
努力すれば変われるなどという単純な問題ではない、根深い、黒人差別と貧困層の地域的な問題が人々の人生に世襲されてしまっている。
マイアミの黒人ばかりのダウンタウン。父親が元々いない家庭の少年シャロンは小さいからリトルと呼ばれ虐められている。母親は父親不在な中食べていかないといけないからドラッグとは繋がりやすい売春業、ろくに仕事もないからこそ、ドラッグ依存でネグレクト。
家庭により様々だがそういうコミュニティだからこそ子供達もいじめに走りやすいのだろうか?そこはわからないが、シャロンは口数もほぼなく、弱々しい歩き方で絶好の対象にされている。
シャロンと知り合い、温かく接してくれた同じ地域に住む成人男性フアンは、金銭的に困っておらず精神的に余裕がある理由はドラッグの売人だから。シャロンにとっては救世主だったけれど、シャロンの母親にもドラッグを売っているのがこの地域の問題の根深さを表している。
心の居場所がフアンとその彼女が住む家にしかなかったシャロンは、そのまま高校生に成長するが、子供の頃唯一気にかけてくれた友達に男同士だがほっとする恋愛感情を抱く。友達は彼女もいるしおそらくバイ。
フアンに泳ぎを教わった思い出の海に、フアン亡き後の思春期にも虐められ悲しい気持ちで訪れたシャロン。そこでたまたま友達に出くわすが、友達は、シャロンの家庭環境など身動きの取れない悲しい状況を知っている。2人の海沿いでのキスシーンは、あまりにも重苦しいシャロンを人間として最大限慰めたい癒したいと思った気持ちが性別を超えただけのように見える。
しかし、その友達も悪い同級生に逆えずシャロンを殴り裏切る。幼い頃からシャロンの心はどれだけ背負い耐えて来たのか、映像だけでもはたから見ていてもかなり辛い。そしてそれが誰のせいでもなく、怒りに変えたとしても行き場がないことが余計に辛い。
母親はもう少し努力できたと思うが、思春期には完全にドラッグに溺れ依存症人生の母親。責めたからと言って今更どうにもならない。
それに気付き、強い人格に変わる事を始めたシャロン。第3章ブラック。虐められて怪我した顔を氷水で冷やして新生シャロンが”ブラック”として覚醒。まずはいじめ首謀者を椅子で殴り少年院へ。
10年後。かつてのフアンと同じ、金の歯カバーでかつてのフアンの車を乗り回し防御万全のシャロン。仕事もフアンと同じ、ドラッグ売人。普通の売人からのしあがり、フアンのような売人のトップに昇り詰めたということだが、かつて母親のドラッグ依存に苦しめられた張本人のシャロンがまさかドラッグを売るなんて。でも、シャロンにとって唯一の人生のお手本兼親がわりがフアンだったのであり、そうするしか生きられない社会の構図。
友達も院に送られ、そこで覚えた料理がきっかけで料理人としてバツイチでレストランのコックになっていた。
大人になってからの2人の再会。友達から裏切りの謝罪をされ、友達の店で友達が作った料理を食べ、音楽を聴く。そして互いのこれまでを労わりあうかのように、シャロンは再び前回ぶりの同性愛へ。
とてつもない哀しみ寂しさ辛さを押し殺し、しかもそれが普通の毎日として繰り返され積み上げられていくシャロンの人生を通して、「同性でも歳上でも家族でなくても、人間が人間を頼ったり、愛情で包むことはできる。もし受け入れてもらえて甘えられる環境があるのなら、それが家族でなくても同性でも、死ぬより全然良い。困っているならこっちにおいで。」そう叫びたくなる作品。フアンの妻テレサのような、心が張り詰めただれかが逃げ込めるシェルターのような存在になりたい。
しみじみと良かった
VODで観たので、映画館で観たらもっと映像が美しかったんだろうなぁと思うけど、ストーリーもとても良かった。1人の人間の人生を追っていく話で、派手な映画では無いけど、しみじみととても良かった。大人になって、料理人になったケビンと会うシーンは胸キュン過ぎて、ちょっと観ては止め、ちょっと観ては止め、ゆっくり観た。最後はどうなったんだろう。それから先はどうなるんだろう。貧困やジェンダーの問題が背景にあるけど、それよりも主人公の人生にそっと寄り添うような映画で、ぼんやりとした儚さ優しさ。画面にはなんとなく不穏な気配もあって、何か悪いことが起きるんじゃないかとハラハラしてしまった。特に何があるわけでもないのに、日常の中で何か悪いことが起きるんじゃないかと考えてしまうことはあって、そういう感じがした。シャロンには実際にわりと辛いことも起こっていたけど。
自分自身を取り戻す
本当の自分に気付き、認めるまでを
臨場感あるカメラアングルで描いています。
ファンが言った「自分の人生は自分で決めろ。他人に決して決めさせるな」という言葉が、胸に刺さりました。
また、母の言った
自分を愛しなさいって言葉も、この映画の大切な要素だと思います。
純愛。
ピュアな愛が描かれている。境遇がとても暗いシャロンに、最後ハッピーな結末があって良かった。
☆よくわからなかった点☆
幼少期、シャロンはまだ自分が気付いていないにも関わらず、いじめっ子にはオカマと言われ、フアンもゲイだけどそのうちわかる、と言っていますが、なぜ周りはゲイだとわかったのかがイマイチわからなかったです。本人もわからないのに、周りが気付くってどんな感じなのか?
その辺についての描写が途中あったのだとしたら、気が付きませんでした。
あんまり、こういう理屈っぽい事に疑問を持っちゃいけない映画なのかもしません。
マイノリティの着目
先ず作品全体のカットが非常に美しいと感じました
特にホアンからシャロンが泳ぎを教わるシーン
水面と二人の姿のバランスが絶妙でした
シャロンはジャンキーで娼婦で貧困という劣悪な環境で育ち
そして自分がゲイであることに少しずつ気づいていきます
そして最後には自分を助けてくれたホアンの仕事でもあり、母を苦しめた元凶でもあるドラッグのディーラーとなる
マイノリティから抜け出すことができなかった
彼は耐えることしか出来なかった
そう感じました
良さを言うのが難しい。海辺で突然はじまったシーン以外はそんなに衝撃...
良さを言うのが難しい。海辺で突然はじまったシーン以外はそんなに衝撃を受けたわけでもないし。ヤクはあっても銃器は出ない。英雄でもなきゃ凶悪犯でもない。
内気な少年シャロンの成長物語というか、半生を描いた作品。学校の友達のケヴィンと同性愛体験をする。というか性の手ほどきを受けたみたいな感じ。学校で自分を虐めた奴に暴力事件起こしてしまい、ムショ入り。ヤクの売人になってしまった。
大人ケヴィンから電話かかってきて再会して、シャロンが俺は経験したのお前だけだったんだぜみたいなこと言って終了。
ただ1時間50分57秒微塵も長く感じなかった。
???
この映画は疑問が多く残った映画だった。何が原因でフアンがしんだとか母親はシャロンが捕まった後に何があったのか葬式の際にシャロンは何を思ったのか、など細かな疑問が生まれた。いきなり高校生になり大人になったのでその成長が急展開で個人的には何を伝えたいのかよく分からなかったです
ブルーが浮かぶ海のシーン
滲み出す様に映画を彩る色彩は、ぼんやり月明かりに照らされる肌の色、はっきりと浮かび上がるシーツや照明のブルーが特に際立っていて美しかった。
この映画は意図的に黒人の肌の色を美しく見せるため、色調を調整してると聞いてその通りに効果が効いていると同時に馴染んでもいるなあと思った。
八方ふさがりのリトルの人生を、海辺へ連れて行きお前も泳げると背中を押してくれた存在フアンも凄く印象的だったし、子供たちが夜の海辺ではしゃぐシーンももちろん。海のシーンがじんわりと浮かび上がる様なそんな素敵な作品でした。
二部の海のシーン、こみ上げる想いを押し込め、「お前も泣くのか」に対しシャロンの「泣きすぎて自分が水になりそう」なんて言葉の紡ぎ方がロマンチックで、好きな人にはこういう一面を見せるんだなあなんて、あの夜のさざ波と2人を照らし出す月の青光りが永遠に続いているような儚い一瞬。
後日、いじめっ子に指名されてあろうことかあの夜過ごした相手に殴られる。仕返しして捕り車に押し込められるシャロンを見るケヴィン。胸がキュッとした。
大人になりフアンのように育った筋肉隆々のドラッグディーラー、シャロンだけどケヴィンとの再会で幼少期のリトルの様に無口に戻りああ見た目は完全に別人だけど中身はリトルのシャロンなんだなって。
ケヴィンの、「ある曲を聴いてお前に似た人を見て思い出したから電話してみたんだ、こっちに来たら美味い飯作るから来いよ。」なんてよく考えなくてもロマンチックにも程がある。
ずっとこれはなんだろうという気分だったけどああ、これはラブストーリーでもあったんだなってやっと気付ける様な2人の距離感。そしてその曲を流して内容が「ハローストレンジャー」の愛する人への曲。思い浮かぶのは、幼少期の2人の会話。
ケヴィンの家に行くも、相手の距離感を伺いながら少し強張った表情で、でもそこにはあの永遠に続く夜の海で内緒の一瞬を過ごした2人が戻って来たんだよね。きっとこの後2人は結ばれるんだろうけど結末は教えないまま。
最後の誰かに呼ばれた様に振り返る月明かりのブルーに照らされたリトルも、あれはフアンにブルーと呼ばれて振り返ったのかな。と考えつつエンドロールが短すぎてもっと余韻に浸っていたかったなあとも思えた。
この映画がオスカーに選ばれたのが心から喜ばしい。世界は本当に変わって来ているんだ。
想いが成就した筈なのに幸せそうには見えない
美しい映像で描かれる、矛盾をはらんだ世界。
見かけは長年想っfていた相手と結ばれたハッピーエンドなのに、なぜだろう。厳しい現実に押し潰されてしまう哀しい未来しか想像できない。
月明かりの下
なぜだか分からないが、冒頭から引き込まれるように画面に釘付けになった。フアンがかっこよすぎて、もっと観たかったなーなんて思いながら観ていた。
「自分で決めろ。他の人に決めさせるな」リトルもシャロンもブラックもその時々の選択は、自分で決めることができていたのだろうか。何よりフアン自身も。
自分の居場所がないと思ったとき、途端にその場や状況は、自分にとって都合の悪いものになっていく。自分のいるべき場所、誰といるのか、どこにいるのか、何を思い、考え、感じて生きていくのか。
分かりやすい答えは出てこない。メッセージ性はたくさんあるのに、分かりにくい。分かりにくすぎて、気づかない。それをどこまで観ている側が受け取れるか。もちろん、受け取れるのが良いということではないが。
三章に分かれているこの映画だが、その間に起きたことをどれだけ読み取れるか。これももちろん、描かれていないので読み取れるのが立派ということでもない。
登場しないことと存在しないことは全く違う。起きてないのことと描かれていないことも全く違う。フアンの死は描かれていないが、三章のシャロンを観れば、それまでどんなことを感じて生きているかが想像できる。
月明かりとは、月自らが放つ光ではない。そういう解釈をすると、陳腐な言葉になってしまうが、輝きだけが人生ではないし、素晴らしい生き方だというわけでもない。少なくとも、誰かを照らすことができるだの、人は1人では生きていけないだの、と言いたかったわけでもないだろう。
月明かりを浴びて走り回ってると、黒人の子供が青く見える
映画「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督)から。
う〜ん、評価が分かれるだろうなぁ、という感想で観終わった。
アメリカが抱える、人種差別や貧困、児童虐待、麻薬売買、
更には、LGBTなどの性的マイノリティなど、詰め込み過ぎという評価と、
何度か登場する「ムーンライト」(月明り)の場面に、黒人の主人公が、
暗闇、静けさの中で、きれいに浮かび上がってくる映像評価。
実は、作品の中で、こんな台詞がある。
「老女は俺をつかまえてこう言った。
「月明かりを浴びて走り回ってると、黒人の子供が青く見える、
ブルーだよ。お前をこう呼ぶ、ブルー。」
何気ないたとえ話かもしれないが、タイトルの「ムーンライト」を連想させる
言葉は、この「月明かり」しか出てこない。
またこの台詞の後「自分の道は自分で決めろ。周りに決めさせるな」と続く。
そのことを作品の軸に据えて、自分の行動を決めていったようにも見える。
構成を、1.リトル(少年期)、2.シャロン(思春期)、3.ブラック(青年期)と、
わざわざ3章に分けた理由を知りたい、とも思った。
アカデミー賞(2017年)、ゴールデングローブ賞(2017年)など、
輝やかしい賞を受賞した作品なのだけれど、平々凡々と暮らす、
日本人の私にとっては、なかなか難しい作品だったなぁ。
ララランドに続きアカデミー賞を受賞した作品‼️主人公がかわいそうだ...
ララランドに続きアカデミー賞を受賞した作品‼️主人公がかわいそうだと感じた😅ゲイであんなにイジメを受けるとは、母親もダメな人で麻薬中毒者‼️息子のお金を取らないで‼️とそう感じた‼️
そこらへんは、共感するけど🤔最後をもうちょっとわかりやすくして欲しかった‼️
青
自分で決めて生きていくというセリフと黒人は月明かりに当たると青くなるというセリフが印象付く作品でした。
子供の時の影響を真に受けて成長していく主人公
どんなときも青色を画面の中にいれていき青を意識させる。しかしこの青というのは他人が決めた物事であり。否定すべき事なのではないのか。そういう他人の印象を受けつつ
最後には自分で決めて一人の男を愛し生きて来ていると描かれていてフラグ回収等はしっかりできていた気がする
純粋な愛、ヒエラルキー、偏見
様々なテーマを同時に描いたいい映画だとと思う。
ただ男性にしかわからないこともあると思うのでそこが足りない事なのではないかと思ってしまった。
思ってたのと違う作品の中
幼少期から大人になるまでの人の過程を見る内容でしたが、同性愛者のお話でした。
この頃の外国ではそのような文化は全く認められなかったそうですが、最後はハッピーエンドです。
最初も最後も触れられたのはお前だけ、俺も触れてないってワードがすごく心に残りました。
あと、ゲイは差別用語ということも知りました。
なんでしょうね、ハラハラもなくただ淡々と人の生活を見る感じでした。
結構壮絶な人生の主人公だとすごく思ったので最後は笑顔で追われてよかったですね。
面白かったかと聞かれたらわたくしの好きなジャンルではなかったのであまり面白さを見出せませんでした。
ですが皆様がレビューで言っている通り、綺麗な作品でした。静かで綺麗でした。
黒人映画のルーティン(?)をことごとくスルーしてる???
アカデミー会員は、取り敢えず『プレシャス(2009)』に土下座するべき。
『ムーン・ライト(2016)』
原題 Moonlight
(あらすじ)
学校では陰惨な虐め、貧しく、ジャンキーである母親から育児放棄されているシャロン(青年期:トレバンテ・ローズ)には、ドラッグディーラーのファン(マハーシャラ・アリ)と、そのその妻テレサ(ジャネール・モネイ)、仲良くしてくれる唯一の級友ケヴィン(青年期:アンドレ・ホランド)しかいない。そんな中、シャロンは、自分がケヴィンに抱く感情が、友情とは少し違うことに気付く。
しかし虐めに耐えきれず爆発した怒りは、激しい暴力となっていじめっ子を怪我させることに。少年収容施設へ入り大人になったシャロンに、ケヴィンから電話が入る。
"黒人映画のルーティン(?)をことごとくスルーしてる"と、プロの批評家さんが仰ってるんですが。
どこを、何を、スルーしてるって言うんだろうか。
90年代の
『ポケットいっぱいの涙』
『ボーイズ・オン・ザ・フット』
『ドゥ・ザ・ライト・シング』
『クルックリン』
『クロッカーズ』
あげたら切りがない!って(笑)
今までも、貧しさ、人種を乗り越えて、自分のアイデンティティを確立する映画は、たーくさん作られて来ました。
けれど、アカデミー会員と、プロの批評家さんがスルーして来たんですよ。
2016年のアカデミー賞で、クリス・ロックが何と言ったか知らないんだろうか?
もっと前なら、1989年にキム・ベイシンガーが言ったことを知らないんだろうか?
あ、まさかゲイの部分だけを取り上げて言ってるのだろうか。
貧しさ、人種、ゲイ。
『プレシャス(2009)』 を観たことないんだろうか?
『ゲット・オン・ザ・バス(1996)』を観たことないんだろうか?
アカデミー会員は、作品の善し悪しに関係なく作品を選んでいることが、今回ほど明らかになったのは初めてじゃなかろうか。
白人中流から富裕層向け人種差別映画『パトリオット・デイ』が、高評価なアメリカですからね。
第89回アカデミー賞授賞式で多くのセレブが現大統領の批判をしてても、心の中はどうか分かりません。
って、いう部分を映画『GET OUT』では描いているので、早く日本でも公開してください!!
アメリカ人の友人が「最近の差別主義者は分かりにくくなった。一定レベル以上の教養がある証明が、人種差別しないことだから」と言っていた。
さて、現大統領のお陰で日の目を見たと言っても過言ではない、本作。
内容は、あまり評価できません。
ファンの子供の頃のエピソードに由来する、また本作のテーマである月明かり。
確かに降り注ぐ月明かりのような映像は、切なく、儚く、美しい。
が、シャロンが最初にはっきりと自分の性に目覚める、ビーチのシーン。
寄り添う二人のバックショット、吐息、砂を掴む拳……、などなど。
いつの時代の演出か!?と。
こちらが恥ずかしくなるほどの、古くさいメロドラマ風の演出が多々ある。
大人になり、マッチョで金歯になったシャロンと、ケヴィンの甘く見つめ合うシーン。
ジュークボックスから流れる、センチメンタルな歌声……。
壁に寄りかかったケヴィンが、物憂げにタバコを燻らすシーンとか。
あぁ!『ブエノスアイレス(1997)』だな!って思いました。
そしたらやっぱり、監督がオマージュであるとコメントしてるみたい。
だって、まんまですもの。
しかし『ブエノスアイレス(1997)』は、レスリー・チャンと、トニー・レオンの繊細な演技と、映像作家であるウォン・カーウァイ監督の才能が相まって、芸術作品に仕上がっています。
でも本作は、ただただ幼稚で滑稽なシーンの連続です。
ロマンティックなシーンであればあるほど、失笑してしまう。
そうだなー。
ゲイ・エロティック・アーティスト:田亀源五郎先生が、ブエノスアイレス的なストーリーを描いた。
と、言えば、分かって頂けるだろうか。
PS そもそも、111分の短い尺で、主人公を3人の俳優さんが演じることも、無理があるのでは?
見てて辛くなるのに、優しくて静かなラブストーリー
よく考えるとものすごいラブストーリーなんだけど、ラブストーリーによくある浮き足立った幸福感とか切なさとか悲しさが全然無くて、「あ、これラブストーリーだったんだ…」ってじわじわ分かってくるタイプのやつ。
色が鮮やかで目に残る。カラフルではないんだけど、視覚から強い日差しとか暑さが伝わってくる感じ。黒人の肌がとても美しく撮られていて、ハッとする。ラストで、夜の海辺に立つリトルの肩甲骨がグッと浮き出てた背中とか月光を浴びて青く光る肌とかね。すごいきれい。
でもそれだけじゃなく、そういうインパクトあるシーン以外の何気無い会話のシーンでも、黒く光る肌やくっきりした白目や彫りの深い顔が、素敵な造形として映し出されてる。
最初のシャロンの印象、若干イラっとするほど暗い。追いかけ回されて隠れて怯えてたところにいかにも怖そうなおじさんが入ってきたら、まぁ警戒するよなと思ったけど、それにしても喋らない。ずっと俯いてる。なんだこの愛想も明るさもない子供は…と思う。
でも、ストーリーを追っていくとなぜシャロンがそうなのか分かる。貧困地区で有色人種でゲイでシングルマザーでネグレクトでドラッグに囲まれてていじめ受けててって、何重苦なんだよ、みたいな状況で、シャロンはそれに耐えられるようなタイプの人間では無い。
なぜかわからないけどハードモードな人生を送らされて、出会うものすべてに怯えながら口を噤んで生きるしかない。リトルがユアンと海で泳ぐシーンで、水面が画面の半分を埋めている描写、見ていてすごく息が苦しくなるんだけど、たぶんシャロンの状況はあんな感じ。泳ぎ方を初めて教えてくれたユアンは、人生の渡り方を指し示した存在でもあるんだよな。大人になったブラックが売人になったの、ユアンの人生をなぞっているような側面も感じる。
まぁそのユアンもただのいい人じゃなくて、リトルの母親にヤクを売ってる張本人ってところが業が深い…って感じなんだけど。
シャロンとケヴィンが海辺で話すシーン、大好き。
海辺に出るまでの石造りの道、ぽっかり広い海が見えてて泣ける程きれいなんだ…。
「風を感じて泣きたくなる」っていうケヴィンに「泣くの?」って食い気味に聞き返すのとか、「泣きすぎて自分が水になりそう」って言っちゃうのとか、もう言葉の端々から相手への好意が静かに伝わってくる。淡々と半分友達を装うように話してるのに、セリフが絶妙にロマンチックで、ここほんとセンスが良すぎる。砂糖入れすぎないのが却って甘さを強調してるの、ずるい。
三章で、シャロンに似てる人を見かけて、その人が、長く会ってなかった好きな人との再会の歌をジュークボックスで流したのを聞いて、シャロンに電話するっていう流れも、さりげない語りのくせにめちゃくちゃロマンチックだよなぁ。
母親との関係性の描き方も良い。ユアンの台詞は後の章でも度々示唆になるんだけど、嫌いだけど、離れてるとこいしくなる、縁が切れない、そういう距離感。
薬やるわ男呼ぶわ育児放棄するわ怒鳴りつけるわ金はたかるわ、そのくせ都合の良い時だけ母親面してシャロンの行動を制限する、最低の母親だけど、半分眠りながらふと悲しそうに愛情を言葉にするシーンなんかを見ると、人間の弱さとジレンマを感じてしまう。愛情はあるのに、自分を律することが出来ない為に子供をないがしろにしてしまう。悪い親であることに変わりはないけど、気の毒で心をえぐられる。
息子と離れて、養護施設(?)で暮らすようになった後は、自分の行なってきたことを見据えるだけの冷静さが生まれてて、「愛してくれなくて構わない。でも、私は愛していることを覚えていて」と伝える。そんな重いこと言われるの、それはそれで辛いよなぁと思うので、やっぱりこの女自分勝手だなと思うけど、シャロンにとっては(子供のころには叶わなかった)愛情を示されることも重要な筈なので、まぁよかったのかなとも思う。自分の息子に「誰か母親みたいな人に相談してみたら」って、自罰と懺悔と後悔に塗れた言葉だよな。
一章から三章までそれぞれ違う俳優さんがやってて、細くて小さくて目がくりっと大きな少年期、縦にひょろっと伸びていかにも繊細そうな青年期、目が鋭くて筋肉粒々の成人後と、もう容姿がてんでバラバラなので同一人物として結びつけるのに一瞬ためらうんだけど、ちょっとした仕草が同じなので見てるうちに馴染んでいくの、面白いなと思った。特に三章は若干ショッキングというか一周回って笑えるくらい変化が凄い。あんなに大人しげな男の子が超ムキムキでガラ悪いお兄さんになっちゃって、何がどうしたのって。
ユアンも子供の頃は小さかったって言ってたけど、まさか伏線だったとは…。
二章のラストで、ケヴィンに裏切られ、何かがキレたように顔つきや仕草が豹変したけど、振り返って改めてそのターニングポイントの強力さに驚かされる。
ケヴィンからしたら、自分の浅はかさがそこまでシャロンを変えてしまうなんて、重いだろうな。シャロンがドラッグを憎んでいるのを知ってるから尚更。
で、「俺に触れたのはお前だけだ」っていう台詞。あー!凄いラブストーリーっぽい台詞ー!そうだなー!少年時代からずっとシャロンはケヴィンを見てたものなー!これで二人がサラッと結ばれてサラッと終わるの、潔い。もうちょっと続きそうなのに、ここで終わる。余韻。
辛くて寂しいことの連続だったけど、ここからはちょっと変わるのかなとか、でもまた何かの切欠で裏切られるかもしれないなとか、色々なことを予感させる。
観た後、現実てまじつらいな…って憂鬱な気持ちになるんだけど、静かな映画なのに印象的なシーンが多く、凄く味わいがあって、好きだなぁと思う。
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