「友情と愛情とエクスタシーと」ムーンライト 加藤プリンさんの映画レビュー(感想・評価)
友情と愛情とエクスタシーと
とにかく映像が美しい。曲が素晴らしい。演出がよい。総合的にかなりハイレベルの映画作品です。
黒人問題、貧困、母子家庭、ドラッグ、いじめ、暴力、同性愛など、てんこ盛りの内容なのですが、
物語構造としては、かなりシンプルな、ラブストーリーなんですね。
貧しい家庭に生まれ、周囲からいじめられていた主人公が、幼馴染との友情を育み、
成長と共に愛情へと変化し、一夜の甘い思い出と、離別する理由となった苦い思いを胸に
長く離れ離れになっていた、その恋人と再会する・・
ね、なんて素敵なラブストーリーでしょう。
ただ、舞台が黒人社会であり、取り扱いが同性愛ですので、表面的に、従来の価値観からは、なかなか受容れ難い作品なのですが、
これが、登場人物が日本人や白人で、幼馴染が女の子なのだとしたら、
まったくありきたりな、よくある恋愛映画なのですね。
そこがこの映画が高く評価され、価値観のカウンター文化の角地に立っている、現代的なテーマを浮かび上がらせてくれます。
(20年前なら「なんか黒人の同性愛の気持ち悪い映画」で切り捨てられていたことでしょう)
LGBTQ、フェミニズム、ポリコレなど従来の弱者への配慮が昨今の映画作品に過度に組み込まれ、
「もういいよ」「作品を壊すな」という感想が漏れ聞こえるご時世ですが、
この時代の波がもう少し、社会全体に浸透し、人類の価値観の変換がじゅうぶんに成されるまでは、
このカウンターが続くことは、時代の必然として、受け容れてゆく必要があるのでしょう。
賛否ある、その議論とモヤモヤ自体が、必要なプロセスとして、取り扱われ、描かれることが大切で、
自覚なき強者から、自覚なき弱者への理解と寛容が社会へ根付くには、もう少し掛かる気がしますね。
どうですか、この映画を見て、甘美なラブストーリーと捉えることができますでしょうか。
浜辺でのラブシーンで、あまりの官能と、甘酸っぱい性の目覚めに、ドキドキしませんか?
恋人に殴られる絶望と、痛みが、どこかエクスタシーに繋がる感覚が、しませんか?(性癖には個人差あります)
その甘く苦い思い出を胸に、何年も相手を想い続ける純愛に、とても素敵な純粋なものを感じませんか?
とても美しい映画だと思います。
この映画を美しいと感じられるように成長した、自分のなかの審美眼を信じたいですね。
(いずれまたこの価値観も変わってゆくことでしょうが、それはまた、別のお話・・)