「黒人映画が黒人映画で無くなる瞬間」ムーンライト 巫女雷男さんの映画レビュー(感想・評価)
黒人映画が黒人映画で無くなる瞬間
今日の今頃鑑賞?第2弾になってしまったのはアカデミー賞作品賞を一昨年受賞した「ムーンライト」。
その頃惜しくも逃した「ラ・ラ・ランド」押しでもあった為、観る気がなかった。
黒人でゲイもので麻薬もので、、、ある程度事前情報は流れて来ていた為、「黒人の差別映画として評価されたのでは?」と自分でも一線は引いていた事もある。
いざ観てみると、違う感覚に陥った。
暴力や差別の社会的背景、生きたい様に生きる個人的主張等、今までの「黒人映画:ブラックムービー」とまで定義されていた映像表現が少ないのだ。
物静かな映画だ。面食らう。
アート的路線に走っているかの様な感じでもある。
主人公シャロンもバカで暴力的な人間では無い。
物静かなゲイ。周りの生活に麻薬や暴力的環境があったとしても自分を変えたりせず、まるで一途に1人の恋人を愛する人間の様に純粋。
カメラ映像も綺麗。物静かをアメリカ的にうまく表現している。
今までの黒人映画にてこの様な映像、脚本、演出の映画を観た事が無い。
あと観終わった方で私の様にふと思った人はいないだろうか?
「これ黒人映画で無くても良くね?」と。
白人でもアジア人でもキューバ人でもメキシコ人でも。
人種を差し替えても観れる映画になっている。
人種の一線を取り払ったかの様。
映画界に一線を引き、その他の映画に交わろうとしなかった今までの黒人映画の歴史。
世界的に人種差別を無くそうと訴えても、中々変われない世界。そりゃそうだ、人間はまず見た目にて人を判断するからだ。それは未来永劫続く話。
映画界でも厳しいと思う話である。
それを黒人から歩み寄ったかの様な映画だった。
ベルリンの壁をいきなり壊すかの様に。
あまり交わるべきじゃ無かった色が他の色に交わる様に。
上記に書いた通り黒人映画が映画界にて自ら歩み寄り、人種の一線を取り払ったという点(黒人映画の概念を取り払ってくれた点)でも評価され、内容的にもアカデミー賞作品賞を受賞したのならば納得出来る。
あの受賞式は黒人映画が黒人映画で無くなる瞬間だったのか?そうであれば素直に喜べず、拍手してやれなかった当時の自分が不憫である。