「シャロンの中に自分を見る。」ムーンライト だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
シャロンの中に自分を見る。
シャロンの子供時代と高校時代と大人になってからを、それぞれ役者を代えて切り取った3章の物語です。
予告で車を運転していた歯が金色の男性が、まさかシャロンだと思っていなくて、びっくりした。
世界はシャロンに優しくなかった。
母はジャンキーで、学校ではいじめられる。
唯一優しくしてくれたフアンは、母に麻薬を売る売人。
友達はケヴィンだけ。
どうやら自分は男らしく見えていないらしく、オカマと呼ばれる。母にも言われる。自分ではどうなのかわからない。
ケヴィンが好き、ケヴィンに触れられるのは、切なくて、うれしい。ゲイなんだろうか。
言葉をたくさん持っているわけではなくて、ほとんど語らない、
寡黙でおびえた目をした繊細な男の子の佇まいが、様々なものを語る映画でした。
夜や海の色彩がうつくしく、切ない。とても詩的な映像でした。
3章の間の出来事は何も語られない。
フアンはどうして死んだのか。
母はいつ薬物リハビリを始めたのか。
シャロンがレゲエ男子をぶちのめした後、ケヴィンはどうしたのか。
語ってほしかったような、いや、その省略が美しいような。
一見して、世界を十分に味わえたわけではないので、
また見たいと思います。
南部の発音は聞き取りづらいし、貧しさの実感もよくわからなく、あんなに荒んだ地域があるのかも知らない。
でも、自分の輪郭がつかみきれなくて、
生きるために嘘の鎧をまとわなくてはいけなかった
シャロンの孤独、
親に愛されない辛さ、
一時の思い出を抱きしめて孤独に生きる時間の長さ、
思いを伝える機会を得た時の、喜びと恐怖、
すごくよく知ってる気持ちがいっぱい詰まっていた。
ひとってそうだよねという、普遍性。
遠い世界に自分と同じように、苦しみもがきながら、
何かを得ようと生きている人がいるという実感に、
切なくなるいい映画です。