「ウルトラセブン」散歩する侵略者 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ウルトラセブン
毎度の事ながら黒沢清監督の作品は見た後不思議な感覚にさせられ、レビューを書こうにも頭を悩ませる。
自分の感じた事、考えた事は当たっているのか。
映画の見方なんて人それぞれだから感想に当たってるも外れてるも無いが、自分なりの感想を…。
ある日突然、近しい人が別人のような性格に。それは、“侵略”の始まりだった…。
同名戯曲を基に黒沢監督が描く異色侵略モノ。
侵略者に体を乗っ取られた者は自分の事も親しい人の事も何もかも分からず、何かの病気のような状態に。
不思議な力で相手の“概念”を奪う。
家族。
自分。
仕事。
愛。
侵略者にとって、それらは複雑過ぎる。
いや、侵略者でなくとも、人間にとってもそれらをしっかり説明する事は容易くない。
一つでも欠け落ちたら人は人で居られるのか。
概念とは人が人であるのに如何に大事か。
奪う侵略者、奪われる人間を通して問い掛ける。
2つのドラマが並行して展開。
若い夫婦、ジャーナリストと若者二人。
鳴海と真治の若夫婦。夫の浮気で結婚生活は破綻。そんな時、夫が侵略者となって帰ってきて…。
言動が可笑しな夫に妻はうんざり。
が、決して見捨てない。
すでに結婚生活は破綻してたというのに。
夫が体を乗っ取られる前は、きっと一緒に出歩く事もご飯を食べる事も無かったろう。
侵略者と人間…いや、夫婦として向き合う。
この夫婦のドラマは愛の概念を物語り、それがオチにも繋がる。
また、別人のように帰ってきた夫の設定が偶然か描きたいテーマなのか、『岸辺の旅』と重なった。
一家惨殺事件を追うジャーナリストの桜井は、一人の青年・天野と出会う。事件の生き残りの娘・あきらを探し出す。この若い二人は侵略者で…。
こちらの侵略者はより冷淡で、侵略準備を進める。
時には追っ手を力でねじ伏せる。
追っ手も武力行使。
侵略/争いの縮図。
最初はまるで信じていなかった桜井だが、信じざるを得なくなる。
人々に危機を訴える。
その最後に、捨て台詞を吐く。
それが何も信じず、危機に無頓着な人間への皮肉に感じ、印象に残った。
また、バンに乗っての旅や芽生える奇妙な友情のドラマも気に入った。
長澤まさみが美しく、キャリアでもベスト級の好演。
松田龍平の人間離れした雰囲気はさすがとしか言い様がない。
長谷川博己も巧演。
高杉真宙と恒松祐里の若い二人が存在感を放つ。恒松は見事なアクションも披露。
平凡な日常から始まり、何処かヘンなミステリアスな雰囲気を滲ませつつ、時々シュールで可笑しく、SFパニックなスペクタクルにも発展。
知的でもあり、B級チックでもあり。
黒沢監督の演出がユニーク。
ラスト、結局○が地球を救うってのはありふれ過ぎていてちと肩透かしにも感じるが、黒沢監督のここ近年の作品では最も見易く、一番気に入った。
不思議な感覚で、味わい深く、なかなか面白かった。
もう一つ気に入ったのが、
思わぬ所から忍び寄る侵略の魔の手。ドラマ性の高い異色SF。
これはもうズバリ、『ウルトラセブン』の世界だ。
『散歩する侵略者』っていうタイトルからして、『ウルトラセブン』にありそうではないか!