「ある意味解放であり一種の幸福」散歩する侵略者 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
ある意味解放であり一種の幸福
8月と9月に観た、今作品と同じく前川知大作の演劇「プレイヤー」を思い出しながら観ていた。
メインキャラの桜井なんて名前も同じだし役割もわりと似ていて、なんだかゾクゾクしてしまった。
身近な人間の人格や言動がガラリと変わってしまう困惑と気持ち悪さ、「概念を奪われる」ことへの恐怖と興味、色々混ざって新しい設定や感覚に頭も使うけどとても楽しくストーリーも面白かった。
意識しないでも当たり前に持ち 気付かず縛られている概念を、もし自分が奪われたら・身近な人から奪われたら…と考えずにはいられない。
ある意味解放であり、視点を変えれば一種の幸せでもあるように思える。
でも、家族は他人となり他人は自分となり理性的な行動は取らず 挙句ボケ〜ッと宙を見つめて過ごすさまはやっぱり異常に見えるし恐怖を感じる。
でも、その正常な状態の概念さえないのだから…? と無限ループに陥る。
ジャーナリストの桜井は人間側にも宇宙人側にも付いているような二面性が面白かった。
マーケットで人間にエキセントリックな忠告をしたかと思えば天野にかなり協力的でその身も差し出す始末。
鳴海にも思ったことだけど、ガイドになると宇宙人に必要とされていることにハマってしまうのかな。
奪われた人間の様子も結構しっかり見れるのが面白い。
わざとらしいくらいの照明演出も好き。
ただ病院に連れ込まれる人数が多すぎるところや、所有の概念を奪われたはずの丸尾君が戦争反対演説のときに「僕達のナントカの〜」的な、所有を示すような表現をしていたのには疑問を感じた。(セリフ覚えてないけど)
侵略に先立って来た宇宙人が3人だけってのや、通信機手作りするとかやたらアナログなのはトンデモだけど面白い。舞台的で好き。
いやもしかしてあの街に3人ってだけで全国的にはもっといるのかな…そうであって欲しいわ。地球侵略するくらいなんだから。
笹野忠率いる胡散臭い防衛団体や軍隊に少し違和感。
そこまで出動するまでの大きく明確な出来事の描写がないので唐突に感じてしまう。
終盤の展開には少しがっかりしたかな。
真治が人間と同化しだして鳴海に肩入れするようになったあたりからアレ?と思い始めていたけど
愛の概念を手に入れて侵略中止〜!ってのもなんだかなあと思ってしまった。
私が完全に桜井や天野たちを応援していたから余計なんだけれども。
でもラストの感情の抜け落ちた鳴海と側に寄り添う真治の、最初とはまるで逆転した二人の対比は好き。
宇宙人役の松田龍平と高杉真空はハマリ役だった。
松田龍平の、元々何考えてるか分からない絶妙な顔立ちと高杉真空の美しい顔面からネジ3本くらい抜け落ちたような表情が印象的で良かった。
やたら強くて暴力的な女の子 恒松祐里もなかなかインパクトあって好き。
作りは雑だしツッコミどころはかなり多いんだけどやっぱりそれを上回る新感覚の深みと面白さがあった。
好き嫌いかなり別れるだろうな…私はとても好き。
黒沢清監督の作品独特のちょっとホラーテイストな見せ方も好き。
映画だからこその表現も多かったので、もうこれはぜひ劇団イキウメの舞台も観に行かなくてはと思っている。
前川知大の世界観にとても惹かれているのを今作品で実感した。