「劇作家の前川知大による劇団イキウメの舞台を実写化。冷めた関係にある...」散歩する侵略者 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
劇作家の前川知大による劇団イキウメの舞台を実写化。冷めた関係にある...
劇作家の前川知大による劇団イキウメの舞台を実写化。冷めた関係にある真治と鳴海の夫婦。ある日、夫・真治の様子が突然変わり、"僕は地球を侵略しにきた宇宙人だ"と告白される。同じく町では一家惨殺事件が起き、それを取材していたジャーナリストの桜井も、謎の少年に"ガイドになってほしい"と頼まれる。
散歩によって地球人の生活を調査し、"ヒトの概念を集める"という宇宙人の設定は、コミカルで知的なオチがあり、まるで星 新一のショートショートみたいだ。地球外生命体という第三者の眼を通して、"人類とは何か"、"地球とは何か"、そして"愛とは何か"にたどり着いていく。
主演は長澤まさみと松田龍平、そして長谷川博己。ある意味で3人ともイメージ通りのキャラクターだ。松田龍平はいつも飄々とした雰囲気で、宇宙人に身体を乗っ取られた真治を演じる。長澤まさみも安定した賢い演技で、シリアスにボケるのがうまい。長谷川博己は「シン・ゴジラ」(2016)や「進撃の巨人」(2015)、「ラブ&ピース」(2015)で見慣れた様子、突然のパニック環境に対峙する常識人である。
黒澤清作品は良くも悪くもオカルトばかりだが、ほぼ交互に"大衆モード"→"映画祭出品モード"である。本作は順番からいうと、なりわいのための稼業になってしまうが、一応カンヌの"ある視点"に救われている。
長澤まさみが東宝以外(本作は松竹・日活作品)の映画に主演するのも珍しく、このキャスティングも黒澤清監督も為せる業だが、さらに小泉今日子や光石研、笹野高史、前田敦子、満島真之介など大衆的な顔ぶれが揃う。このキャスティングがなければ場末の映画だ。
キャッチ―なタイトルとピリリと効いたアイデアは、黒澤監督によってより具体表現を得られているが、どうひっくり返しても"演劇的なアタマで考えたプロット"の域を出られていない。小劇団にありがちな"青臭い主張"がまとわりついて、どうもメジャー映画化する必然性を感じられない。テレビの「世にも奇妙な物語」でもいいくらい。
(2017/9/9 /TOHOシネマズ錦糸町/シネスコ)