「登場人物も伏線も多過ぎる」ナミヤ雑貨店の奇蹟 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
登場人物も伏線も多過ぎる
本作を最後まで観て思ったことがある。日本の映画は伏線が良くできているなと。
生まれてこの方東野作品を読んだことがないので正直なところはよくわからないが、東野圭吾の原作ですでに伏線がうまく張られているのかもしれない。
ただ伏線が上手く張られていることと作品の善し悪しはまた別である。
それにヨーロッパ映画を観ているとほとんど伏線がないので、なくても映画が成立することに慣れてしまっている。
むしろ伏線が多過ぎると少し鼻につく。
その意味で本作は伏線が多すぎてその回収に忙しい作品に思えてしまった。
小説は足し算が許されるが、映画は引き算によって成り立つ。
そのため原作が複雑だと映画化は難しいとも言える。原作は十分説明できる分もっと流れもゆっくりしていて余韻もあるのではないかと勝手に想像している。
本作を観る数日前にたまたま立ち寄った新宿の紀伊国屋書店で館内放送が流れていた。その中で西田敏行が「感動する作品です。私も泣きました」と手前味噌に本作を宣伝していた。
出演者がそう言ってもね〜、誰が真に受けるんだろ?と思ってしまった。
本作を観たのはひとえに『武曲 MUKOKU』を観て村上虹郎を気に入ったからである。
ただ彼も含めて山田涼介と寛一郎は走ってばかりの割に出番が少ないように感じて本作では彼の演技をあまり楽しむには至らなかった。
門脇麦も『愛の渦』で乱交セックスをする風俗店に初めて来店した女子大生役を体当たりで演じて以来ずっと注目している。
本作の役は出演時間が短いものの、意外に歌は聴けることがわかった。これから歌う役が増えるかもしれない。
一方ミュージシャンなのに林遣人の歌はひどかった。歌詞を歌わせずに「ルルル」で通して歌い始めてすぐにカットしたのは賢明な判断だと思う。
『バッテリー』以来10年が経ち紅顔の美少年も髭面の親父になってしまった印象だが、頼りないが心優しい青年をうまく演じていたと思う。
ただ1点、あの火事なら逃げられそうだし、あの高さなら2階からも飛び降りられそうに感じてしまった。昔の映画の火事シーンはもっと火勢があったように感じる。
消防法に抵触するのかわからないが、最近の映画はこういう細部を疎かにしている。
その他の俳優も、西田敏行を初め、尾野真千子、成海璃子、萩原聖人、小林薫、吉行和子、山下リオ、手塚とおる、と下手な役者はいない。
しかしそれに比べるとどうしてもジャニーズの山田涼介が見劣りしてしまう。また本作は登場人物の多さから群像劇の一面も備えているのに、伏線の回収に忙しいあまり、1つ1つのエピソードを有機的につなぎきれていない。
本は読み返すことができるが、映画ではそれができないので、ああそう言えばさっきそうだったね、と思い出しながら観なければいけない。
そのせいか本作からは何か全体的に締まらない印象を受けてしまった。
山田の言葉遣いも気になる。
崩しているというよりただ乱暴なだけに思えて聞いていてあまり愉快ではなかった。
また浜辺での門脇の踊りはインサートカットにしては長過ぎるかもしれない。
しかも門脇の動きがぎこちない。なんでも監督からの無茶ぶりだったらしい。可哀想に。
豊後高田市は古い町並みも残っていてなかなかいいロケ地だったと思う。
ただどうしてもインフラ設備の中で病院は真っ先に改築されてしまうので、小林薫の入院していた病室は明らかに1980年のものには見えなかった。
このシーンだけのためにセットを造るほど資金が潤沢にあるとも思えないので、そこはしょうがないかもしれない。
本当は町全体のセットなどを造ることができればいいとは思うが、それは無理な注文だろう。
なお山下達郎の新曲は本作に合っていたと思う。
原作小説は5年前に刊行されているが、今映画化されたのはやはりタイムリープの流行に乗ろうとしているように思われる。
また集客のためにジャニーズ所属のアイドルを起用することも問題だが、こういうタイムリープ作品は過去のシーンがその時代に見えないことには始まらないので、今の日本映画界の資金力のなさも大きな問題であるのを痛感した。