「生活の中に哲学がある女性の、新しい人生の幕開け」未来よ こんにちは 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
生活の中に哲学がある女性の、新しい人生の幕開け
日本の宣伝ではやたらと「おひとり様」という言葉を使ってキャッチ―にしているつもりの様子だったけれど、実際に映画を見てそんな陳腐な言葉を用いるのは恥ずかしいと気づかないのだろうか?映画は、確かに母親を亡くし、夫と別れ、子どもが自立し、仕事も離れ・・・と、自分の人生に付きまとっていたある種の「しがらみ」がほろほろと剝がれていく過程を、哲学と照らし合わせて物語にしている。そこがこの映画のポイントだし魅力だと思う。
高校で哲学を教えている主人公が、自分の身に起こっていることや、自分の日常を顧みる時に、そこに常に「哲学」があるのが興味深い。恐らく彼女は日々の暮らしの中に常に哲学が寄り添っていて、何かを考えたり決断したりする時にも常に哲学が助言をしているのだろうことが分かるような。だからと言って小難しいことを語っているわけではなく、映画と哲学が当たり前のように溶け合って物語になっているような感じがとても好きだった。フランス人の多くは彼女のように生活の中に当たり前に哲学があるのだろうか。だとしたらとても素敵だろうし、迷いや不安も怖くないだろうなぁと思う。
先ほど「しがらみ」という言葉を使い、それは悪いことのように思えるかもしれないけれども、私たちはその「しがらみ」に身を預けることで安堵できているような部分もある。家族というしがらみ、肩書というしがらみ。しかしそういうものが自分から離れていき、少しずつ身一つになり始めていく最初の時期を、イザベル・ユペールが上手く演じていた。ほとんどユペールありきの役柄という感じがしないでもないほど、ユペールによく合っていて、知的で少し孤独で、凛としていて人に依存していない感じ。ユペールだからこそ成り立った映画かもしれないとも思う。
ひとりになる、ということの概念の感じ方がそもそも日本とフランスで違うのか、身軽になった主人公が次に取る行動があまり実感としてピンとこないものが多く、主人公に共感したり感情移入したりっていうよりも、ひたすら傍観しているような感覚でしかなかったのは、私がまだ本当の意味で孤独ではないからだろうか。