劇場公開日 2017年4月14日

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「妙味」グレートウォール 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0妙味

2020年12月14日
PCから投稿

当時、チャンイーモウの新作で主人公がマットデイモンと知った時点で「?」になった。
この「?」はものすごいキュリオシティだった。

映画は公開されたが、評価はかんばしくなかった。
imdbやtomatoesもぜんぜん伸びていない。

だけど個人的にすごくいい。
マットデイモンが軽い。
アジア的な愁嘆がぜんぜんない。

文化大革命のあと、まっさきに入ってきた外国映画が、君よ憤怒の河を渉れ(1976)だった。

娯楽がなんにもなかったところに入ってきた、魅惑の世界だったわけで、中国人たちが、この映画からうけた衝撃/刺激は、はかりしれない。

ジョンウーもトリビュート&リメイクしているし、チャンイーモウもこの映画で高倉健のファンとなり単騎~で仕事をしている。
おそらくチャンイーモウは親日派であるはずだ。

金陵十三釵の反日な描写が矛盾しているが、知ってのとおり、中共から目をつけられたら、映画人とはいえ、しごとができなくなる。

過去作でも、国内の禁止処置があったチャンイーモウとしては、いっぱつ中共に迎合してます──な映画を撮って、看視を逸らせたかったのであろう。

金陵十三釵に出てくる日本軍は、中共が展開する抗日路線に合致する。
ただし、がんらい描写がうまい人が、日本軍をおもいっきり悪辣に描いてしまったわけで、反響はすごかった。

だが、チャンイーモウの映画製作は安泰になった、はずである。

昔よりも商業主義的な作風になったが、卓越した演出力はかわっていない。
予算もしっかり取れる。

その潤沢さが、映画のはじまりから、すごくわかる。
まず軍勢の、備え。
赤備えかと思ったら、黄もいる。黒もいる。青もいる。
CGも使える時代なのだろうが、キングダムなんかと比較すると、キングダムがきのどくになってしまう圧倒的な物量。

そして陣太鼓の勇ましい響き。攻城戦で、歩兵の出る幕がないが、弓隊の赤はまだいい。飛び道具なんだから。じぶんが飛んじゃって長槍で白兵する青備えの鶴軍が、なにしろいちばんたいへんそうだった。

その鶴軍をつかさどる女将軍とマットデイモンがいい感じになるが、そのへんもあっさり描いている。なにしろ軽く描いている。その軽さがいい。

食事に招かれたはいいが、腕前を見せてみろよと煽られて、早撃ちの矢で腕を柱に固定するシーンが楽しい。

なぜ、このデイモンとPedro Pascalのコンビは、こんなに楽しいのか、考えてみた。おそらく、チャンイーモウのようにできるひとが、わざと描き込みを減らしているからだと思う。

描けるひとが、商業主義に徹して、あまり描かない──から、いい感じの軽妙が生まれたのだろう、と思ったのだ。

映画は及第なできぐあいだけれど、モンスターの造形もいいし、なによりチャンイーモウがハリウッドのスターをつかっている妙味が、この映画にはある。と思う。

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津次郎