「偉人でも聖女でもない。覚醒した女の強さ。」ジャッキー ファーストレディ 最後の使命 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
偉人でも聖女でもない。覚醒した女の強さ。
伝記映画となると、どうしても対象人物を美化しようとしたり、あるいはその人物の半生の「あらすじ」を追いかけるのに終始して映画としての面白味を見出せないような作品も少なくない中で、この映画が良いと思うのは、ジャクリーン・ケネディをこの映画ならではの切り口で見つめ描いているところ。そしてそれは確かに「ブラック・スワン」でバレリーナという美しい職業を鋭く抉り取ったのにも通じるところがある。ダーレン・アロノフスキー製作、ナタリー・ポートマン主演の「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」も、ファーストレディという高尚な立場にいる女の生身を鋭く抉り出していた。
まるでサスペンスかスリラーであるかのような緊迫感が全編に漂い、その緊張の糸を時々爪弾いて音を鳴らし、こちらの神経を逆撫でするようなシーンが続く。決して快適ではない。ただ、ともすると呼吸を忘れてしまいそうなほどに見入ってしまう。ありふれた伝記映画では感じることのない映画体験だった。
暗殺前のテレビ出演のシーンと、暗殺前後の騒然と混沌の中のシーン、そして記者のインタビューに答えるシーンと・・・、という具合に、いくつかの時間軸を往復しながら映画は展開するが、それらの断片的なシーンがいつしかコラージュのようにドラマを導き出し、気が付くとカタルシスにまで到達していた。
この映画に映るジャッキーは、偉人でも聖女でもない。ひたすら強かで強靭でそしてファーストレディだった。夫を殺されたその瞬間から、ジャッキーに迫られる決断と選択と意志が、いかにして芽吹き、いかにして揺らぎ、いかにして実現したか、そしてその裏で彼女が何を思い、何を信じ、何を築き上げたかが映画の中でしっかり考察されている。アメリカ大統領である夫を伝説に変えるためのわずか数日の出来事。夫の死後、まるで何かに目覚めたかのように動き出すジャッキーの一挙手一投足に目が釘付けになった。この役を、全く以ってジャッキーに似ていないナタリー・ポートマンが演じたのも良かった。悲劇と混乱の中、狂気的なまでに覚醒する女をドラマティックに演じていて、物真似ではない「演技」を堪能できた。
ジャクリーン・ケネディという女が、いい意味でも悪い意味でも「人間」であり、いい意味でも悪い意味でも「ファーストレディ」だった、というのが強く感じる映画だった。