「中条あやみの魅力を引き出した、これはこれでいい」覆面系ノイズ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
中条あやみの魅力を引き出した、これはこれでいい
"花とゆめ"掲載(2013~連載中)の福山リョウコ原作による同名コミックの実写化。これはこれでいいけれど、アニメ版のほうが100倍せつない。ギターのリフがカッコよく、荒々しいロックだったのに対して、相当ポップで軟派なイメージ。まったくの別ものと考えて観るのがいい。
監督は「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」(2015)の三木康一郎。興行的には成功したが、原作の実写化の腕前はどうかと思う。今回もその予想どおり、思いっきり裏切ってくれたわけだ。
実写版のいちばんの注目は、中条あやみの初主演である。9頭身という超人的なスタイルで傑出した、"CanCam"専属のファッションモデルであり、一昨年からドコモのTV-CMに出まくっている。女優としては、今年「チア☆ダン・・・」(2017)で広瀬すずと共演したり、これからの活躍が楽しみな20歳である。
本作は、いわゆる"音楽系"映画だ。音楽系のヒット作を挙げれば枚挙にいとまがないが、紙媒体であるマンガからの映画化の特徴は、初めて"絵から音が出る"こと。よって、"演奏力"、"歌唱力"、そして"楽曲の良さ"が、作品全体のクオリティに大きく影響する。
なので、中条あやみの初主演もさることながら、ヴォーカリスト役としての歌唱が最大の見どころだ。映画予告編で、"♪響け~"とシャウトする、この曲「カナリヤ<MOVIE SIDE>」での、その歌唱力もなかなかのもの。必見。
しかしアニメ版の「カナリヤ<ANIME SIDE>」とは同タイトルで曲がまったくの別モノ。作曲家も違えば、歌詞も異なる。
実写版の音楽監修プロデュース・主題歌を、"MAN WITH A MISSION"が務めている。アニメ版の音楽を担当した"Sadesper Record"(NARASAKIとWATCHMANのユニット)とは、音楽性がガラッと変わるのは、当たり前である。
劇中バンド、"in NO hurry to shout"(愛称:イノハリ)は、劇中の役柄そのままに、中条あやみ、志尊淳、磯村勇斗、杉野遥亮といった出演メンバーで構成されている。現役高校生が隠れてプロ活動をするという設定上、包帯マスクと片目眼帯をはじめとする覆面衣装で謎のバンドとして人気を博している(映画では顔丸出しで眼帯だけというシーンもあり、ダメでしょコレ)。
近年の音楽映画で、劇中バンドが実際に楽曲デビューするのは定例である。「キセキ あの日のソビト」(2017)で、"GReeeeN"を演じた菅田将暉とか、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(2013)における三浦翔平や窪田正孝などによる劇中バンド、"CRUDE PLAY"などがある。
音楽テレビ番組に出演するというパターンにも持ち込みたかったらしく、よりポップで大衆的な曲調である必要があったかもしれない。加えて、アニメ版のNARASAKIのカッコいい曲は演奏が難しい(笑)。しかしそれはそれとして"大衆的でポピュラーな曲"という意味では成功している。
見方によるが、アニメ版を知らなければ、これはこれでいい。むしろ知らない方が幸せで、中条あやみの魅力を引き出した、良い作品ではある。
(2017/11/25 /TOHOシネマズ錦糸町/ビスタ)