「中途半端にアニメ版をなぞるな」氷菓 といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
中途半端にアニメ版をなぞるな
原作は未読ですが、京都アニメーション制作のアニメ「氷菓」は全話視聴しました。京アニ作品の中でも一番好きな作品です。
そんな私の感想は「中途半端にアニメ版をなぞるな」です。元々京アニ版の「氷菓」は評判の良い作品であったため、それと比較されてしまうのも可哀想な話ですが。
今作にある一番の問題点として、「中途半端にアニメをトレースしてしまった」ことが挙げられると思います。
まずは主人公たちグループのビジュアルの問題です。この氷菓という作品は、原作版や漫画版やアニメ版で主人公を含むグループのメンバーのビジュアルが大きく異なります。それぞれの媒体や制作者に合わせた見た目に変更されており、それがこの作品の魅力でもあります。
しかし、今作の場合は京アニ版のキャラクターデザインに明らかに寄せているキャスティングのように感じました。特にヒロインの千反田える役の広瀬アリスは明らかにミスキャストです。広瀬さんは大人びた美しさがある素晴らしい女優さんですが、好奇心旺盛で一種の幼児性を持つ千反田えるというキャラクターを演じるにあたってはこの大人びた容姿が完全に逆効果になっていると感じました。当然これは広瀬さんの責任ではなく、キャスティングした側に問題があります。いくらアニメ版ヒロインが黒髪ロングとはいえ、同じ黒髪ロングの女優連れてくればいいもんじゃないです。
また、省エネ主義で面倒が嫌いな主人公の折木が千反田に頼まれて謎解きをするシーンにも違和感がありました。
千反田えるは興味を持ったことを徹底的に追求したがる性格で、「私、気になります」という台詞とともに無邪気な眼で主人公の折木に迫り、根負けした折木が謎解きをする、というのが今作のお決まりのパターンなのですが、アニメ版の無邪気にキラキラと光るえるの瞳の描写や「謎解きしないと逃がしてもらえなさそう」というのが伝わる演出があり、省エネ主義の折木がわざわざ謎解きをする理由付けがされていたのですが、実写版の場合はえるが折木の腕を掴み見つめるだけ。これでは省エネ主義の折木がわざわざ謎解きをする理由付けが弱いうえに、ほぼ初対面の男に対して恐喝にも似た方法で謎解きをさせる千反田えるに対しても印象が悪くなってしまうやりかただと感じました。眼がキラキラ光るみたいな「アニメだから出来た表現」を削ったのに、腕を掴んで見つめる表現だけを中途半端に残してしまったのはあまり良くなかったです。
アニメにはアニメの、実写には実写の良さがあります。
実写がどれだけアニメに寄せようと、「アニメに寄せた実写」にしかなりませんし、中途半端にアニメをトレースした作品の方が、原作ファンからは反感を買います。
アニメに似せろとはいいません。「実写でやる必要性のある作品」というのが観てみたいです。それで面白い作品が出来上がれば、実写映画から興味を持って原作小説やアニメを見てくれる人が増えると思います。