「閉じた市場が畳まれていく」機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
閉じた市場が畳まれていく
雑誌「ガンダムエース」が創刊され、今日まで、様々な困難を乗り越えて公開されたTHE ORIGINのアニメシリーズが一応の完結を迎えます。ひと言で言って夢のような時間でしたが、夢は現実になり、徐々に姿を変え、もどかしいほどの苛立ちを消化できないまま、終わっていこうとしています。
知らぬ間に、ククルス・ドアンのコミックがスタートしていたり、安彦さんがずいぶん老け込んでしまわれたりと、残酷なほどに時間は歩みを止めません。
「一応の」と注釈付きでの完結となり、この続きは現状では劇場版『機動戦士ガンダム』をご覧下さいということになるのでしょう。そこに感慨も、渇望も何も感じないというのが正直なところです。
美彩になった作画環境。音響効果など、進化した現場の作業は、もはや安彦さんと言えどオールドタイマーなのでしょう。それでも絵コンテ、原画に名を連ねているあたりに、絵描きとしての安彦さんの矜持を見た思いです。
細部のこだわりが強ければ強いほど、おおもとの演出がおろそかになる印象は否めません。たとえば強いショックを受けたセイラがタブレットを落としてしまう分かりやすい演出。ドズル・ザビのような直情型の指揮官がとてもあれだけの大艦隊を率いることが出来る能力があるようには見えない演出。わざわざ終盤に向けて「役者がそろっていく」高揚感をあおる演出。アムロの性格がどう考えてもアップデートされている演出。それらは、おそらく安彦さんの意向が強く働いているとしか思えない。
もし、このままテレビシリーズに続いていけば、確実にコミックとも違うものが生まれてしまう機運を感じます。もはやORIGINですら、過去のものとなりつつあるようです。つまり、「リブート」こそが、いま望まれている機運で、潤沢な資金さえめどが付けば、いつでもスタートできるほど、研ぎ澄まされているのでしょう。その気配は十分に感じることが出来るのですが、残念ながら、いまの閉ざされた市場を背景にしては、その機運を実現することは困難極まりないことのようです。
安彦さん、お疲れさまでした。もう少しだけ、私たちに夢を見させてください。