劇場公開日 2018年2月1日

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「なぐり書きのぐるぐる」不能犯 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0なぐり書きのぐるぐる

2020年7月11日
PCから投稿

漫画で、吹き出しにセリフでなく、なぐり書きのぐるぐるを書く心象表現がある。
名称があるのか、ないのか、解らない。あったとしても浸透はしていないと思う。

易しく丁寧に説明したのに、ぜんぜん解ってもらえない──とか、ものの道理や筋道を逸脱している行動/言動、あるいは玉虫色の考え方──などに対して、この吹き出しは使われる。

表わされている感情は、一種の「あきれ」である。強いあきれだが、怒りをともなわず、無力を感じ、諦観の境地にはいっている。言葉で言い表すと、そんな感じだが、漫画ではもっと含みのある心象が表現されている。言葉で表せないのが漫画の説得力でもある。

転じて、これを言葉であらわせたら──名称を付けることができたら、かなり使いでのある形容になると思う。

この映画のプロモーション用のポスターに「上映開始5分、あなたの心が支配される」とのコピーがあった。
ご覧になれば解ることだが、このキャッチはつりである。

映画を見はじめて5分も経たないうちに、心ではなく頭が「なぐり書きのぐるぐる」に支配される。

まず、その相関が数多のバディものを踏襲した、ベテラン刑事と新米刑事のコンビが出てくる。
「行くよ新人」
「あのぼくモモセです」
新米刑事は生真面目の属性と、名前で呼んでもらえない属性を持っている。が、エリカ刑事、野趣あふれるアウトロータイプだが、じつは熱い兄貴分。新米が死ぬか、死ぬ目に遭うかのフラグを立てたあと、バディものの紋切り度を忘れさせる勢いで、映画は飛躍と短絡で展開してゆく。

まるっきり現実味のない警察、いきなりトップギアに入る人々、あらゆる布石を置き忘れた事件と事故、ぜんぶ後出しジャンケンの真相、小林稔侍まで配した不可解なほどの豪華キャスト・・・。
開始5分から書き始めた頭のなかの「なぐり書きのぐるぐる」は、すでに吹き出しをはみ出し、ページをはみだし、机から虚空へ連なっている。

しかし、つり映画に律儀なツッコみを入れるのも芸がない。そもそも、人気漫画を実写化させた、興行のほかにはなんの野心もない、いわば罪のない映画である。愚直な批評をすればするほど、レビュワーの非リア充度を露呈させる種類の映画である。「怖かったー」の一言が最も妥当な批評であろうと思う。

ちなみに白石監督のノロイ(2005)は、日本の因習と辺境/マイノリティが持っているいびつさをドキュメンタリータッチで可視化させた傑作だと思う。
つくりものがつくりものに見えなかったし、かぐたばの響きは日本人が備えている禁忌をうずかせた。
氾濫する恐怖動画、おわかりいただけただろうか系動画の祖でもある。個人的には、ホラーを超え、日本映画の傑作だと思う。
が、玉石混交中のノロイではなく、鶏群の一鶴のノロイである。中田秀夫監督に似ているのかもしれない。

ところで、不能犯のレビューがしたかったのではなく、ひとつ言いたいことがあって、書いている。
冒頭に戻って、漫画で使われる「なぐり書きのぐるぐる」の名称について。もし「殴り書きのぐるぐる」に名称をつくって、一般に浸透させることができたら、それは現代社会において、とても使用頻度の高い用語になると思う。

映画レビューで「なぐり書きのぐるぐる」と同じ気分を言い表したいときが、とても多いからで、発明したら、大勢から感謝され、流行語大賞に選ばれたり、現代用語の基礎知識にも載るのではないか──と思う。
が、クリエイターからは嫌われるだろう──とも思う。

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津次郎