「マニア向けから万人向けにしっかりと再構成されている」ゴースト・イン・ザ・シェル レナーさんの映画レビュー(感想・評価)
マニア向けから万人向けにしっかりと再構成されている
ワールドプレミアにて鑑賞しました。
攻殼機動隊は押井監督の攻殼機動隊/ゴースト・イン・ザ・シェル、イノセンス
神谷監督のTVシリーズ攻殼機動隊SAC
冲方監督のARISE
と観てきましたがそれぞれがパラレルワールドですので本作品もハリウッド独自の攻殼機動隊を楽しみにしていました。
神格化された攻殼機動隊がハリウッドで実写化という話は数年前から何度も立ち上がり頓挫し、立ち上がりの繰り返しでした。
1度スピルバーグ監督の名がでたときもありましたがその企画も倒れています。
ここ数年でポンポンと攻殼機動隊の大ファンであるルパート・サンダース監督に決まり撮影もスムーズだったようです。
スピルバーグからの直接指名により監督にありつけたようで本作には並々ならぬ覚悟があったと思います。
感想としてなにより声を大にして言いたいのが主人公の少佐を演じるスカーレット・ヨハンソン。恐ろしいほどのハマり役でした。
スクリーンに少佐がいるだけで圧倒的なオーラがあり超A級バジェットというが伝わってくるため、彼女が演じてくれているだけでハリウッドで撮った価値があると思います。
ハリウッド版の少佐として雰囲気は押井版の草薙素子、設定はハリウッドオリジナル要素とバランスが良くしっかりと存在感を持たせることに成功していました。
菊池凛子やミズノ・ソノヤ(エクスマキナ、ララランド)のほうが少佐役に適しているという声を聞きますが本編を見た後だとスカーレット・ヨハンソンで大正解だったと思います。
ホンダのバイクに乗り疾走する姿はミラ・ジョボビッチ以上に似合っていてカッコよかったです。
なお予告では名前がミラであったり、少佐の復讐劇になる設定改変が話題になりましたが本作の改変は非常に上手くいっていると感じました。
押井版の人間としてのアイデンティティの在処や複雑なストーリー構成などと比べると少し浅く誰にでもわかりやくなってる感じはしますが、決して復讐劇などではなく主人公がゴーストの囁きに導かれて戦いに身を投じていく展開は、まさに押井版の難解さをわかりやすくしハリウッドならではの解釈をいれファンを驚かすストーリー展開に仕上がっています。
さらにSACのような未来刑事的シーンやARISEのような衣装など全作のミックスのようですが焦点はゴーストにしっかり当てているのも好印象。
映像的にも高層ビルや廃墟、落下する少佐、光学迷彩、音楽などかなりアニメに寄せているためよくあるお金の掛かったSF映画ではなく攻殼の世界をしっかりと作ったと感じさせてくれる映像に仕上がっていました。
少し難点を上げるならば荒巻を演じるビートたけしだけずっと日本語での演技になり英語→日本語→英語→日本語といったシーン運びのため違和感が拭えませんでした。
独自の世界観を創るのに一役買っているのかもしれませんが、これは個人の好みになってくると思います。
荒巻の銃撃シーンが批判を浴びてましたがルパート・サンダース監督が北野映画のファンであり、ビートたけしの暴力的なシーンを入れたいとのことで銃撃戦を撮ったようです。本編でそこまで悪いシーンだとは感じませんでした。
今作のゴースト・イン・ザ・シェルは20年ほど前の作品にも関わらずハリウッドとして世界でヒットさせるために限りがあるなか映像的にもストーリー的にもアニメに寄せるところはトコトン寄せるという愛を感じました。
攻殼機動隊は作品をつくる監督の作家性を全面に出すため、無理に作品を繋げるようなことは今までありませんでした。
このハリウッド版ゴースト・イン・ザ・シェルも完全に独立した新しい攻殼であり、世界に向けて作った作品として申し分ない出来です。
なによりやっとハリウッドの攻殼機動隊が見ることができ、しっかりと日本へのリスペクトを感じる出来で満足かつ幸せでした。
マニアにしか受けない攻殼機動隊を万人向けに作り直し、ファンにもしっかりとしたサービスを用意してくれたキャスト、スタッフにありがとうと言いたいです。