「I will let you down,I will make you hurt. 老カウボーイよ、深く眠れ…。」LOGAN ローガン たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
I will let you down,I will make you hurt. 老カウボーイよ、深く眠れ…。
アメコミヒーロー映画『X-MEN』シリーズの第10作目にして、主人公の1人であるローガン/ウルヴァリンの壮絶な闘いを描くスピンオフ『ウルヴァリン』シリーズの第3作。
2029年、ミュータントは日増しにその数を減らし続け、今や絶滅の危機にあった。
かつてのX-メンのメンバー、ローガンは身体の衰弱に苦しみながら年老いたプロフェッサーXとともにメキシコに身を隠していたが、ある少女との出会いが彼の運命を大きく変えることになる…。
監督は『ウルヴァリン:SAMURAI』のジェームズ・マンゴールドが続投。本作では脚本も担当している。
◯キャスト
ローガン/ウルヴァリン…ヒュー・ジャックマン。
製作総指揮はスタン・リー。
…いや、凄いなこれ。
何が凄いって、『デッドプール』『X-MEN:アポカリプス』というポップコーンムービーが続いたその後にこの映画を制作/公開した事。高低差ありすぎて耳キーン状態。
同じマーベルでも、保守的な「MCU」シリーズでは絶対にこの映画は無理。20世紀FOXの攻めの姿勢は賞賛に値します👏
2000年公開の第1作から実に17年間、シリーズの顔として戦い続けてきたウルヴァリン。本作でついにその歴史に幕が降ります。
血塗られた道を歩き続けたウルヴァリンが最後に経験するのは、シリーズ史上最も陰惨で過酷な物語。人殺しに幸福は不要、とばかりに、徹底的にウルヴァリンをどん底に叩き落とし続けます。
本作のランタイムは137分。短い映画ではないが、だからといって特別長い訳でもない。近年の大作映画では極々普通の尺と言って良いでしょう。
しかし、本作はこの2時間17分が本当に長い…。一時も息継をする間のない、とにかく煮詰まりに煮詰まったドラマが続く。真綿で首を絞められるような展開に、観客も窒息寸前になるまで追い詰められます。
3時間にも4時間にも感じられるランタイム。ただ、これは決して悪いことではない。ローガンの苦しみが観客にも伝わっているからこそ時間の進みが遅いのであって、退屈すぎて時間が進まないという訳じゃないからね。
かつての友はみな逝き、身体は病に蝕まれ、大量破壊兵器と化したボケ老人の介護をしながら、身に覚えがない娘を押し付けられ、挙げ句の果てに武装集団に追いかけ回される。
この退っ引きならない状況の中、自殺願望を押し殺しながら懸命に前に進むウルヴァリン。しかし事態はどんどん最悪な方向へと転がっていく。
どん詰まりまで追い込まれるからこそ、最後に見出す希望と救いが強烈に観客の胸を打つ。シリーズを追いかけている観客なら、あのラストシーンに心動かされないわけがない😢
主人公の死というのは一回こっきりしか使えないある種の反則技みたいなもの。これで人を感動させるのは卑怯だ!と思わんこともないのだが、まぁでも今回ばかりは許すしかない。だってそれまでの過程が上手いんだもん。ここまで丁寧にプロセスを積み重ねられたら、そりゃ文句の一つも出ませんて。
アルツハイマーを患い力の制御が出来なくなったプロフェッサーX、恐怖と不安を粗暴な態度で隠す少女ローラ、過酷な現実を受け止めきれず再び心を閉ざしてしまったウルヴァリン。
年齢も性別もバラバラな3人が一台の車に乗り込み逃避行を繰り広げる様は、緊迫感がありながらもどこかユーモラス。
ひたすらにキツい物語が続く本作だが、この3人のケミストリーが心地良いからこそ、最後まで投げ出さずに鑑賞できたのかも知れない。魅力的なキャラクターというのはやはり大切なのだ。
メインキャラクターを演じた3人の俳優、パトリック・スチュワート、ダフネ・キーン、そしてヒュー・ジャックマン。本当に素晴らしい演技を披露していた。
3人とも素晴らしかったが、個人的にMVPを授与したいのはプロフェッサーXを演じたパトリック・スチュワートである。
正直、本作を観るまでは魅力のある役者だと思っていなかった。華は無いしなんかぼんやりしているし…。
ただ、今回の演技はマジで凄い。ボケ老人の演技は本当にボケてんじゃないかと思わせるくらいのリアリティがあったし、そこから徐々に正気に戻っていくという、その段階を見せる演技がとにかく見事。意識のグラデーションを表現する様は神がかり的とまで言える。
今回、これまでには無かった様々な表情を見せてくれるプロフェッサーX。特に薬を飲んだことを見せつけるためローガンにベー👅をするシーン、ここ大好き。
ヒュー・ジャックマンも本当に良い役者。今回改めてそう思った。もう風格が並の俳優とは比べ物にならない。
本作は完全に西部劇を意識した作劇な訳だが、ヒュー・ジャックマンの佇まいは往年の西部劇俳優たちにも匹敵する渋さ。マジでクリント・イーストウッドのレベルに到達してる。1作目の頃はまだまだこれからって感じだったのに、今回の名演で完全にハリウッドを代表するトップスターにまで上り詰めたね。
そういや今作、イーストウッド監督作品『パーフェクト・ワールド』(1993)に似てる。今回のヒュー・ジャックマンってなんとなくケビン・コスナー感あるし。
この映画大好きだったなぁ。また観たくなってきちゃった。
マイノリティーへの差別と迫害。
『X-MEN』シリーズは常にその愚かな価値観に闘いを挑み続けてきた。
今作で国境を越えようとするのはメキシコ人の少年少女たちであり、これはトランプ政権下から今に至るまでの、右傾化を続けるアメリカの情勢を踏まえているのだろう。
迫害を受ける若きミュータントたちが目指すのはアメリカではなくカナダ。もはやアメリカにマイノリティの安住の地はないのだ。
マンゴールド監督の怒りと悲しみが、彼らの旅路にしっかりと表れています。
本作が『X-MEN』シリーズ最高傑作であることは疑いようがない(他の作品とは作風が違いすぎるので同じ軸で判断していいのか疑問ではあるが)。
ただ、『X-MEN』という一つのシリーズの中の一本としては、ちょっと問題が多すぎる作品であるようにも思う。
『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)のことを思い返したい。
舞台は2023年。センチネルと呼ばれるロボット軍団によりミュータントは絶滅の危機に瀕していた。
ウルヴァリンは1人過去に戻り、若き日のプロフェッサーXと協力して歴史を改変。無事、ミュータントの滅亡を阻止したのであった。めでたしめでたし😊
…ちょっと待ってくれよ!!
それから6年でミュータント滅んどるやないかい💦結局滅びの運命は変わらないんだったら、『フューチャー&パスト』の頑張りはなんだったのよ…。
本作中、度々ウルヴァリンはX-MENのコミックを取り出して「現実とお伽話は違う」と説教を垂れる。
これはこれまでのシリーズ作品と本作とは違うタイムラインのお話なんですよ、ということを暗に示しているのだと思われるが、そんなもんこれまでずっとシリーズを追いかけてきた客としては知ったこっちゃない。当然本作もこれまでと同じタイムラインに属する映画だと思って鑑賞します。
本作ってシリーズ作品の一つとして考えると、あまりに過去作を蔑ろにしているのではなかろうか?
いくらなんでも製薬会社の遺伝子組み換え食品でミュータントが絶滅したというのは無理があるでしょぉ〜…。
単純な話、2029年という近未来のお話にしたのがそもそも問題ありな気がする。
ローガンは不死身なんだから、時代設定を2129年とか2229年とかにしておけばミュータントが絶滅していたとしても不自然ではない。
愛する人に先立たれるというウルヴァリンの宿命、それによる孤独もより強調される。いい事ずくめじゃん。
ただ、この時代設定にするとプロフェッサーXを登場させる事が出来なくなる。彼がいないと本作のドラマ性が弱くなるのは確実。
プロフェッサーXを取るかシリーズの整合性をとるか、おそらくは監督も悩んだと思うのだが、選択したのは前者の方。
この判断のおかげで確かに単独作品としては傑作になったのだが、シリーズの流れとしてはうーんなんだかなぁ…🌀
と、若干モヤるところもあるっちゃあるんだけど、間違いなく観る価値のある一本。アメコミ映画をバカにしているような層にも、この映画は刺さるんじゃないかな?
R.I.P.ウルヴァリン。安らかに眠れ。
…まあ『デッドプール3』で再登場するらしいんだけどね😅
あー、ヒューの素敵さを的確に言語化された、素晴らしいレビューですね。いいね、恐縮ですw
改めて、あんなに心もイケメンなヒューでも離婚するなんて、ショックが大き過ぎます😂
う〜む。いいレビューですねえ。
俺がこの映画を長いと感じたのは、そういう理由だったのか。言われて気づくこの浅はかさ。たしかに、観終わった時には3〜4時間ものを観た疲れで、レビュー書く時にあらためて時間みたら2時間17分とあったのには違和感を覚えていたことも思い出しめした。
これしか観てないんじゃ語る価値なし、と言われそうですが、このレビューみたおかげでまた観るかも!!