劇場公開日 2018年2月24日

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「予習が必要なファンタジー」空海 KU-KAI 美しき王妃の謎 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0予習が必要なファンタジー

2018年2月24日
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鑑賞方法:映画館

2004 年に夢枕獏が書いた原作「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」は未読である。空海が入唐後に同じ留学生の橘逸勢と協力して楊貴妃の最期を推理して回るという話だそうだが,この映画では橘逸勢の役割をそのまんま白居易に置き換えてしまっており,空海と白居易が史実でも年齢が近いのは良いとして,入唐後に長安の青龍寺に入山して恵果阿闍梨に教えを請うまでの間のいつの時点で知り合ったのかと言った話は全く語られていないので,最初から違和感全開の話になっていた。

例えば,日本で産出した食材をCの調味料や香辛料をたっぷり使って料理し,大きなCの食器に盛られたものを,Cの調度の整ったC風の建物の中で食べたら,きっとこの映画を観終わった後のような感想を持つのだろうと思った。主人公が空海である必要は一切なく,相棒が白居易である必要も特に感じられなかった。演出やカメラ回し,笑いの誘い方など,全てが BS で時々放送されているCの歴史ドラマそのものであり,テンポが悪く,盛り方が過剰で,しかも嘘臭かった。北京五輪の開会式のような胡散臭さがかなり気になった。

物語の下敷きには,空海の入唐と密教の修行,玄宗皇帝と楊貴妃の物語,日本からの留学生でありながら科挙に合格して玄宗皇帝に仕え,そのまま帰国せずに一生を終えた阿倍仲麻呂の物語,玄宗皇帝に招かれて楊貴妃の前でその美しさを讃える漢詩を書いた李白,玄宗皇帝と楊貴妃の悲劇から 30 年ほど後に長恨歌を書いた白居易(白楽天),玄宗皇帝に楊貴妃を殺すように求めた謀反人の安禄山などの話が盛り込まれているのだが,そのどれもが一切説明されていないので,これらの物語をある程度頭に入れてから見に行かなければ,恐らく何も面白くないと思えるに違いない。現に,私の2つ隣で見ていたどこかのオッさんは,上映中何度も大あくびをして私の不興を買ったが,遂に限界を察したのか,上映開始から1時間もしないうちに帰って行ったようだった。

玄宗皇帝と楊貴妃に対する阿倍仲麻呂の立場がまずあり得ないと思ったし,肝心な部分が全て幻術のせいにされてしまっていてますますリアリティを欠いていた。唯一の救いは,楊貴妃役の女優が本当に美しかったことと,空海役の染谷将太があまり表情を変えずに相手を正面から見て話す様子が,いかにもその後まもなく悟りを開く空海らしく見えたところである。空海は幻術を見破れるのかと思ったが,必ずしもそうでもなかったところが結構肩透かしであった。染谷将太はほぼ全編でC語で喋っているようだが,自分で日本語に吹き替えていた。

音楽は,何とクラウス・バデルトで,あの「パイカリ」の第1作で数々の神懸かり的な名曲を披露した人物である。本作では,単独のクレジットでなく,作曲協力などという名目のCの名前が追加されていたので,かなり合作なのかも知れない。そのためか,彼の美点がかなり薄まってしまったと思った。

この映画は,日本とCの合作ということだが,資金の出所はほとんどC側のようで,派手な CG やセットに惜しみなく金を使っていたという感じであった。最近,Cはハリウッド映画にも出資して,見返りにCを良く描かせたり,主役級のCのキャラを登場させるなど,印象操作に必死な感じを受ける。スターウォーズに突然Cのキャラが出てきて目障りだったり,古くはハリポタの恋人役がCだったし,ゼロ・グラビティで重要な役割を担っていたのがCの宇宙船だったりしたのは記憶に新しい。この映画は,ほとんど自国の観客向けに作られているのが明白であり,話の都合上日本でも公開したというのに過ぎないような気がする。唐の時代のあの国の歴史に多少明るい方でないと,恐らく私の2つ隣で見ていたオッさんのようになってしまうのではないかと懸念される作品である。
(映像4+脚本2+役者3+音楽4+演出2)×4= 60 点。

アラ古希