劇場公開日 2020年1月17日

オリ・マキの人生で最も幸せな日 : 映画評論・批評

2020年1月14日更新

2020年1月17日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー

「迷子」のオリの心情を、16ミリの寡黙なモノクロ映像を通じて雄弁に物語る

ボクサーのイメージは、ハングリーとストイック。だがオリ・マキには当てはまらない。彼に似合うのは、迷子という言葉だ。フィンランドで初めて開催されるフェザー級の世界タイトル戦で、格上のアメリカ人と対戦することになったオリ。しかし、そもそもオリはフェザー級ではなくライト級の選手。しかもアマチュアの戦歴が長く、プロの興行にまつわるメディア対応やスポンサー・サービスに慣れていない。場違いな世界に引っ張りこまれ、自分の居場所がここではないとわかりながら、そこで輝いてみせなければいけなくなった男。それが、この映画のオリ・マキだ。

だからオリは逃げまくる。減量から逃げ、練習から逃げ、スポンサーからもメディアからもマネージャーからも逃げる。そんな彼にとってのたったひとつの救いが、試合の2週間前に恋に落ちたライヤだった。おそらくマネージャーをはじめとする周囲の人間は、彼女のせいでオリは勝負に身が入らないと思っただろう。しかしオリの視点で物事を見れば、ライヤという逃げ場があるからこそ、彼はなんとかこの瞬間を生き長らえているのだ。

そんなオリの心情を、ユホ・クオスマネン監督は、16ミリの寡黙なモノクロ映像を通じて雄弁に物語る。とくに印象的なのは、「逃げ場所」にいるときのオリのいきいきした表情。ライヤとのデート場面から、同僚ボクサーたちと素っ裸で水をかけあう場面まで、逃げ場所ではしゃぐオリは、夏休みの宿題を先延ばしにして遊ぶ子供のようだ。反対に、追い込まれて減量する場面や、メディア・サーカスの渦中にある自分を見世物小屋の女性に重ねあわせる場面は、悲哀に満ちている。明暗のコントラストが鮮やかだ。

タイトルの「人生で最も幸せな日」は、「世界戦の日が人生で最も幸せな日だと言えるように頑張れ」というマネージャーのセリフに由来する。結果的に、その日は、ライヤへの婚約指輪を買いに行ったことでオリの最も幸せな日になる。そして、それが幸せな日々の始まりになったことを、老境に入ったオリ&ライヤ夫妻の後ろ姿に語らせた終幕が素敵だ。

矢崎由紀子

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