武曲 MUKOKUのレビュー・感想・評価
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剣、道
剣道にまつわる話しだった。
殺人の手法でありながら活人の役割も果たす武道というものの共通項なのだろうか?
その相反する理念が共存し交わる様を映画にしたような作品。
そのコントラストがとても明確に対峙する2人に反映されてた。
役者陣は錚々たる顔ぶれである。
悟りと修羅と。
鬼と剣士を。
特筆すべきは村上虹郎君である。
なんと凛とした佇まいであろうか…。
狂気を孕む綾野氏を前に一歩も引かなかった。彼のキャリアを考えるととてつもない才能のようにも思える。
物語どおこうよりも、村上x綾野に魅入る。
この題材とこの監督に出会えた事は、至福であったのではないかと思える。
それほどまでに、2人の没入感が凄かった。
とてもよかった
高校の時に剣道部で2段を持っている。試合では勝ったことがないくらいの低レベルであったのだが、剣道にはあまりいい印象がない。今でも柔道をやっていればよかったと思っている。「当てっこ剣道」という言葉があるように、現代のスポーツ化した剣道には本来の「斬る」要素がないと言われており、オレもそう思っている。後に抜刀術を習って真剣で巻藁を斬ってみて、これだと思った。剣道では、勝っても負けてもどうでもいいというような気持ちにしかならなかった。自分より圧倒的に強い人と当たっても、「剣道が上手だな」としか思わなかった。自分の視野が狭いだけかもしれない。しかし、後に空手を習って強い人と向き合った時は「殺される」と思った。このように剣道に対して冷ややかな気持ちを抱いているオレが剣道をテーマにした映画を見てどう感じるのかに興味があった。
大会で何度も優勝するようなハイレベルな世界が描かれていた。そんなハイレベルな選手が、アル中になって高校生の剣道部で無双で狼藉を働くところがとても面白く、ワクワクした。素人を高校生の剣道部の強い人がいたぶるのも面白かった。リアルに描かれていてとてもよかった。
ただ、お父さんが自分が命をかけるのはいいのだが、トラウマを息子に残すのは親としてどうかと思う。アル中から抜けるお寺の場面は『フレンチコネクション2』のヘロインを抜く場面みたいだった。
緊迫感あふれる再生物語
酒におぼれ自堕落な日々を送る矢田部(綾野剛)。まるでシャブ中のようなナリだ。それは、わが手で父を植物状態にした責めによる後悔の果てかと思っていた。だが、実はそこには、父に対する感情を把握しきれない葛藤があった。「憎しみ」なのか「好き」だったのか。劇中、それを光邑(柄本明)に指摘されて思い悩む矢田部に、心を乱された。それまでただのクズにしか見えなかった矢田部が、自分の運命に悩み苦しむか弱き一人の男に見えだしてきたからだ。
そこに、まっすぐな若者羽田が現れて(と言っても光邑の仕掛けなのだが)矢田部の迷う心を激しく叩く。ふたりの丁々発止に息をのむ。剣道の対決シーンの切れ味がすごい。
ラスト、別人かと思わせる綾野剛の演じ分けに感服。そして、父の思いを知った矢田部の涙に、思わずもらい泣きをした。
結局、すべて先まで読み切っていた光邑のシナリオ通りだったというわけだが、そんな坊さんを柄本明は見事に演じていた。
村上虹郎も見るたびよくなっていく。なぜか目が離せない雰囲気がある。
原作は未読だが、天才的剣道センスを持ち合わせた羽田がラッパーだという設定に、はじめ違和感があった。しかし、運動神経やリズム感、言葉を感じる感性など、なるほど、心技体を体現する剣道という競技にもってこいだわ、と唸った。
リアリティ版少年漫画
参考に調べてみたら原作が藤沢周平かと勘違いしていた(汗) 全然関係無いらしいとのことなので、だからなのか、映画でもそれ程深みが感じられなかった。もう少し劇的で、少々スプラッターな場面もあっても良いと思うのだが。あくまでもリアリティに拘るのか、その割りには、酒2升吞んでもあれ位の千鳥足で済むのか、事務所NG なのは分かるが、あっちゃんの濡れ場移行は、引きのカメラアングルでサービス感は薄く、パンツ投げる位が関の山。はっきり言ってしまえば、綾野剛のプロモーションビデオに始終してしまってる体裁になっているのが、どうにももどかしい限りだ。折角の村上虹朗登用も、その必然性が感じられず、それでも、なんとかその気が触れたような目力だけは爪痕を残す演技として目立った位。勿論、脇を固める江本明、風吹ジュン、小林薫等の演技力は安定ではあるが、かといってそれ程の情感の訴えは響かなかったのは、自分の心が荒んでいるせいか?(苦笑)
決して悪いストーリー展開ではないのだろうが、何となくそのディテールの詰め方がリアリティに詰めがちなのに、でも、ユルい演出にチグハグさを感じた作品であった。勿体ないのである。
結論:アルコール中毒患者が迷惑かけながら立ち直る話という単純な話です
ひりひり
アッちゃんのパンティのシーン以外、一切妥協なく張り詰めた2時間。時にはリアリズム、時には幻想的に男の苦悩と再生を描く。二人の男の真剣勝負(木刀と演技)は必見。村上のストイックな色気、綾野の鬼気迫るアル中演技。美しいロケーションと魂を削るような演出、渾身の編集で魅せられた。
アクションもすごいし
綾野剛さんのアルコール依存の演技は凄絶。『そこのみにて光輝く』もそうだが、自分が人を死に(近い状態に)至らしめたことが、どれほど精神をさいなむのか、恐ろしいほどに伝わる。
父と子の相克はすさまじかった。県警の凄腕剣士が我が子に「殺人刀(せつにんとう)」を仕込む姿は異様で、幼い研吾役の子がけなげで痛々しかった。無慈悲な父もまた、そのように仕込まれ、恨みとともに剣道を続けて来たのか。
光邑和尚曰く、研吾もその父も同じく「弱い」「逃げている」。稽古を重ねても、おのれの弱さがなくなるわけではないということか。自分の闇を見つめる狂気を演じたら綾野剛さんの右に出る者はいないと思う。
研吾が剣道の心得のような文章をつぶやく場面があった。精神の鍛錬とか国家の平和とか、剣道を学ぶ効用の副次的な産物ではあるかもしれないが、剣道の目的はたぶん違う。これはスポーツではないようだ。
「剣道は競技だ」と部活の生徒は言い、「殺し合いでしょ?」と融は言った。剣道はもとをたどれば人を殺す術であり、今の世にあっても、生きている実感を生と死のせめぎあいに求める若者がいるということ。
村上虹郎さんも見事だった。実は剣道初段とのこと、いっそ初心者のふりをせず、腕前を見せてもらったほうが、「殺人刀」の使い手である研吾の父と二重写しになる必然性が増したのではないか。他の方も書いておられるように、矢田部研吾が素人の高校生と本気で勝負をするという設定に、どうも入り込めない。
それ以外は、柄本明さんや小林薫さんの達人ぶりに見惚れたし、鎌倉の風景が人間くさく魅力的に見え、ホームレスのおじさんや女性たちもいい味を出していると思った。
アル中の研吾が剣道部員をなぎ倒して竹刀を折る場面とか、立ち直る過程で仏前で素振りをするのはどうかと思ったが、二人が最後の勝負で防具をつける所作は美しく、剣道と禅について興味を持った。
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