笑う故郷のレビュー・感想・評価
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Don't Cry for Me Argentina
原題は『著名な市民』『笑う故郷』では、誰が主語かで違ってきます。僕はこの主人公が笑っていると思いました。この作家が行き詰まりを感じ、突然良いアイデアを思いつき、『シメシメ』とこの故郷を心の奥底で笑っていたと思います。いわば、確信犯だと思います。故郷の人は笑っていません。怒っています。
『タンゴ』には『アルゼンチンタンゴ』と『コンチネンタルタンゴ』があります。
つまり、スペインから見れば、アルゼンチンこそコンチネンタルなはずです。イギリスから見ればアメリカがコンチネンタルですからね。政治を語るなと言ったニュアンスを語りながら、自虐的にアルゼンチンの発展途上振り馬鹿にして、それをネタにして私利私欲を貪っています。本音が分かれば、怒って当たり前でしょう。
市役所の待合室にエビータとペローの写真がもっともらしく飾られていますが、彼等は独裁者と言われましたヒトラー、フランコ、ムッソリーニとも関係がありました。この辺がこの作者が言う古い社会に留まっていると言うことだと思います。朝鮮民主主義人民共和国の金親子の写真を飾っているのと同じです。それは兎も角。
『Don't Cry for Me Argentina』ですね。
にしきをかざる
ノーベル賞作家が40年ぶりに故郷の片田舎を訪れる話。招聘され、数日滞在し講演や街の行事をおこなう。むろんフィクションであり、コメディの体裁がある。成功者が辺鄙で酷い目に遭うスラップスティックなものを想像した。
はたしてそんな感じで進むものの、辛気くさい。笑えるというよりAwkwardに耐える感じだが、かえって現実的でもある。
田舎には暗愚な人たちがささやかな自尊心を守りながら生きている。が、世界的に有名となった作家マントバーニ自身も、けっこう俗物である。両者は相容れず、どちらの望みも叶わない。
見た目も技法もamateurishだが、徐々に辛辣になり、個人的にはコメディにはならなかった。地方という社会は、ここに示されたカリカチュアと五十歩百歩だからだ。
わたしは飲みながら友人に「知ってるか?文化会館が立派なほど田舎なんだ」とか「地域活性化ってのはな、成功しなかった人のする活動のことだ」とか、言ったことがある。ささやかな自尊心を守りながら生きている田舎者とはいえ、みずから卑下してみるのが好きだ。
マントバーニは、芸術家肌のいけ好かない人物像だが、意外に核心を突いている。インテリではあっても聖人ではないから、降って湧いたpussyを拒絶せず、古い色恋に揺れたりもする。が、三回の講演──徐々に減る聴衆を前にしても真摯にこなし、美術展審査の不本意を正しもする。Awkwardだが、成功者/有名人とて凡そこんな感じだろう。
映画のプロモーションポスターがアワードの月桂冠に囲まれていることがある。が、映画のアワードは有象無象、サンダンス以外ほとんど信じられない。
この映画も月桂がぐるりと囲んでいたが、妥当に思う。
地元/田舎とは滑稽なところであり、有名になったなら帰郷するのは間違いである。──個人的にはリアルなドラマだった。
田舎町と文化とは
前半はほのぼの路線。故郷の人々の貧しくも暖かいモテなしに、こちらも日本を離れて15年の身として、それだけで結構ウルッとした。市民美術展の審査で地元の権力者とひと悶着あり、その後色々とありながらもなんとか乗り切っていくのかと思いきや、まさかのラストで度肝を抜かれました。
美術展の開会式で、文化とは何かということについての意見を述べるんですが、その洞察がすごい。当方も美術制作を行っているので、文化政策についてモヤモヤとすることが多いのですが、核心をついた内容が心に突き刺さります。
文化とはそもそも人が住む場所には自然に存在するのだ。それを保護やプロモーションだということを言い始めると、事がおかしくなる。文化政策は100%経済的な利益が目的である。と、大学の先生が言っていましたが、結局はそこにしがみつく自治体や政治家、住民、作家が作り上げる共同体に過ぎないのかもしれません。
もちろんそんなに事は単純ではなくて、ハイアートはそもそもそういったポピュラーな表現との垣根を作ることで成り立っていて、多くの主知主義的な生産物はそこから排出される分けですから、一概に文化政策を否定することはできないんですが。
出身地の田舎の文化イベントや現在住んでいる街のことを考えると、全然笑えない、非常に恐ろしい内容で、考えさせられました。
田舎者がリアルで怖い
過疎化の進む日本の地方をアルゼンチンの田舎に、東京をスペインに置き換えて鑑賞しても、全く違和感なく妙にリアルで説得力がありました。都会から田舎に移住するとこんな感じなんだろうな。IターンよりもUターンの方が、過去のしがらみがあるから余計にきついかも。
村では、身内、知り合いのオンパレード。身内びいきは当たり前で、芸術や文化なんて分からない。分からないというよりそもそもそんなことに興味ないでしょ 笑
スペインに移住したインテリなんて田舎者からしたらやっかみの対象にしかならないですが、作家にとってはこの貴重な経験もネタになんて、毒が効いていて面白すぎました。都市部から田舎に移住して周囲にフラストレーションがたまっている方にオススメです。
邦題ナイス
邦題タイトルで、楽しいコメディかと思って観ました。
確かに時々シュールで、くすっとくる箇所もあるのですが。
違いましたね。
授与されることになった「名誉市民」。なんか小さくね?。
パレードが消防車の上に乗るって、どうよ?
市民向け3回の講義も、受講者激減。ほとんど見世物状態。
最初の歓迎ぶりはどこへやら。飽きやすい市民性なのか?。
主人公がスペインで暮らす家は、たくさんの蔵書に囲まれたピカピカな家。
それと真逆な、故郷の荒れ果てた風景が対照的。
絵画コンクールの審査員を頼まれ、それを選ぶと。
「入選作に地元の人の絵がないので・・・」って、それなら頼むなよ(笑)。
「あの小説は、うちのパパの事だよね。夕食に来て!」などなど、無理難題を押し付けられる連続。
段々「ああ、やっぱり来なきゃよかった」って表情の主人公に同情をしていきました。
昔の恋人が友人と結婚していて、娘がいる。この家族に招かれるあたりから何となくサスペンスっぽく様変わりして。
「夫と狩りにはいかないで」の妻の言葉に、イヤーな予感がしたのは私だけではないはず。
「マジかー!!」の場面。ここからの残り10分が一番良かった。
「第1章:招待状」「第2章:サラス(故郷の地)」と場面タイトルが出てたのに気づき。あざ笑うのは、故郷なのか主人公なのか。へーと見終わりました。
第73回(2016)ヴェネチア国際映画祭男優賞受賞。岩松了さんが日本で演じてもいい感じでしたってか、似てる。
原題は、El ciudadano ilustre。直訳すると「輝かしい市民」(多分)。なので邦題の方が、興味を惹かれました。
レンタルだったらきっと出会わないし、借りない作品ですな。
だから面白い。
全然関係ないけど、途中で「へんてこむーん」って空耳で聞こえたけど。なんていってたのかなあ(笑)。
地味に面白い(褒めてる)
癖のある作家である主人公が故郷へ帰るのだけど
どうして帰る気になったのかわからなかったというか
英雄のなることに実は興味があるかなと思った
帰ると歓迎を受けるが表と裏の顔が徐々に見え隠れしてきて
様子が変わっていくのが絶妙でうまい
最後はかわいそうな展開になるのだけど
やっぱり作家のが一枚上手だった 笑った
主演の男優がいかにもひねくれてる感じ うまいなーー 面白い
ちょっとシニカルな人間観察
邦題「笑う故郷」に騙されるな。
「笑う故郷」と聞いてイメージするものは、笑顔の多いほのぼのとした田舎の情景なのでは…と想像する。ところがどっこい、映画は、人の心を雑巾でも絞るが如き、笑顔とは対局的な展開へと進んで行く。そして、残されたテーマは、「真実とは、認識の一部でしかない」ということだろうか。
原題は「El ciudadano ilustre」訳すと、名誉市民という意味だろう。この映画と原題に対し、「笑う故郷」と付けた意図は何か?奥深いのかなんなのか?謎…。
事実も小説も奇なり
ヒスパニック系映画が続くのだが、今作品も又大変秀逸な内容である。特に一筋縄ではいかない主人公の作家とその生まれ故郷の人達との抜き差しならぬ交わりは、観ていてスリリングすら感じさせる。プロット自体はそれ程斬新ではないのだが、とはいえ所謂『勝ち組』だが皮肉屋の人間を主人公に据え、だが『錦を飾る』体で向かった故郷の人達は、表向き歓迎はしているが、それぞれの思惑が色濃く滲み出ているし、共にやっかみや嫌悪、主人公を利用してやりたい連中も又纏わり付いて、どんどん主人公に同情するようにシークエンスが進行してゆく。積極的な女の子は実は友人の娘であるとかの伏線もきちんと効いていて、これもストーリーに彩りを与えている。あんなに味方でであった友人は、実は妻の元彼である主人公に未だに嫉妬を拗らせていて、終盤のヒリヒリした『イノシシ狩り』のシーンは、主人公に憐憫をしてしまったのである。
だが、結局は主人公はこれも又小説の題材として、どっこい利用してしまうという中々のオチで幕を閉じる。最後のフラッシュを浴びての主人公の卑しい笑顔が、勝ち組の重要要素である『虚栄心』を見事に使い、成功したのである。
展開のスピーディーさ、登場人物の数の丁度良さ等々、コンパクトにそれでいて上手く膨らませる構造に唸るばかりである。人間の本質を秀逸に引き出し、演出をした監督に脱帽である。これこそ邦画では産まれない内容であろう。
故郷は遠くにありて思うもの
故郷に帰る。
錦を飾る。名誉市民になる。
昔の恋人、小説の中で侮辱されたと憤る人、もう遠くにいるのになぜか近い人。彼の日常の人との距離感が縮まり、侵入されていく。
最後のヒゲを剃った顔が、最初の物語と妙にシンクロしている。
味わい深いコメディだった。
芸術と現実社会の狭間とは⁈
現実社会を解釈して芸術にする文学者と現実社会を現実として生きる人々とのすれ違いを、鋭く描いた秀作。
故郷を捨てた筈なのに、故郷から捨てられあるいは石もて追われることになる現実。捨てたら取り戻すことは難しい。
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