「北欧の厳しい冬の時代」こころに剣士を 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
北欧の厳しい冬の時代
最近、ヨーロッパの映画を以前より多く観るようになって思うのは、やっぱりどの国にも歴史があって、暗い影を落としていた時代があるということ。今回「こころに剣士を」という映画を見て、ドイツとスターリンに翻弄されたエストニアの歴史の闇を垣間見た気がした。
第二次世界大戦中にドイツ軍にいたことから、エストニアがロシアの支配下となった現在では秘密警察に追われる身となってしまった元フェンシング選手の主人公が、身元を隠しながら小学校の体育教師として子供たちにフェンシングを教えていく。そして学校に通う子供たちの父親も、主人公と同じように身を追われシベリアへ送られてしまったという孤独を抱えている。
ぱっと見だけで言えば、出来の悪い子供たちに熱血教師が何かを指導して才能を開花させる物語に似て見える。「天使にラブソングを・・・2」や「グレート・ディベーター」や「奇跡の教室」などを連想させないこともない。またそういう視点で捉えると、少々ご都合的なストーリーにも思える。保護者がフェンシング指導に満場一致で賛同するのはあまりにも呆気ないし(これは学校側が頭が固すぎただけで当然のことなのだが)、まったくの初心者が大会で優勝できるほどの練習と指導があったようには見えなかったり、細部に粗が見えないこともない。
しかし、身元を隠して苦手な子供の指導をしながら何かを感じ始める男と、父親を社会に奪われてしまった子供たちがフェンシング指導を通じてふと父性に触れる、そんな暗い歴史の中の一市民たちの物語として捉えると、一気に深みを増していく。エストニアの歴史については(世界史に疎かった)私は不勉強で、正直知らないことだらけだった。ドイツ領からソ連領に支配の手が変わったことで人生と生活とが大きく変動したエストニアの歴史に関して、この映画から学ぶことも多く、やはり戦争や政治がいかに人の運命を変え狂わせ苦しめるかについて深く悩まされることになった。と同時に、フェンシングという競技が、自らに課せられた宿命に剣を立てて闘う彼らの姿と重なる気がして、とても感動的だった。随所で挿入される美しいロマンスにはほっこりと息が抜ける気がして、緊張の糸を温かくほぐしてくれるようだった。
映画として必ずしも器用ではないけれども、遠く離れた国の歴史を知り、それを自分自身に落とし込み、同じ悲しみを繰り返したくないと改めて思うきっかけとして、良い映画と出会ったと思った。