「物理的時間と心理的時間のトピックを組み合わせた時間をめぐるドラマ」メッセージ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
物理的時間と心理的時間のトピックを組み合わせた時間をめぐるドラマ
時間は物理的時間、肉体的・生理的時間、心理的時間に大別される。
物理的時間は時計で測れる過去から未来へと流れる時間、肉体的・生理的時間とは体内時計等の時間、心理的時間とは「楽しい時間はあっという間だが、退屈な時間は延々と長い」と感じる時間のこと。
例えば、今でもファンの多い『ある日どこかで』は物理的時間と心理的時間を組み合わせたタイムトラベル映画で、行きたい時代の品物を身に付けて自分に催眠術をかければ、実際にそこに行けるというほのぼのとした映画だった。
原作を読んでいないので詳細はわからないが、本作も物理的時間と心理的時間に関する次のようなトピックを組み合わせてドラマ仕立てにしていると思われる。
①循環的時間と流れる時間
物理的時間の認識形態をみると、古代人の時間意識は生命を左右する作物の収穫、天空の動きとともに形成され、そこでは季節とともに生命が死に絶えるが、新たな季節とともに再び生命が甦るという循環的な時間認識が形成されていた。その後、科学の発達とともに時間は過去から未来へ不可逆的に流れるものだという認識に変容した。
②ラプラスの悪魔
宇宙にあるすべての物質の質量と運動量を知っているものは、宇宙を未来まですべて予言できるという仮説。現在では量子力学により否定されているが、本作では異星人は3,000年先まで予知できるという設定である。
③言語によって左右される時間意識
人間は言語によって思考するが、言語によって異なる時制があるように、言語が異なれば時間意識が変容する。それを本作はSF的に予知能力にまで大幅に拡大している。
本作は基本的な構図としては、SFによくある異星人とのファーストコンタクトもののうち、「いい異星人」との接触パターンである。
言語学者が異星人の言語を習得した瞬間、予知能力を身に着けて、地球人と異星人の戦いを未然に阻止するというだけの単純なストーリーなので、作り方が難しいところだが、冒頭から何度もヒロインの未来のシーンを挿入することで、重層的なイメージを作り上げている。
ただ、ここには好みの問題も入ってきて、「未来がすべてわかってしまうのは味気ない」と考える小生にとって、最後は「ちょっとなあ」と首を傾げざるを得なかった。