「スピリチュアル、ゲイ、ナチス…既視感」プラネタリウム 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
スピリチュアル、ゲイ、ナチス…既視感
本作を観ていて『レオン』からすでに20年以上、ナタリー・ポートマンも30代半ばになったかと感慨深い。
また仏語を話すナタリーに新鮮さを感じた。
一方妹役のリリー=ローズ・デップにとっても本作は出世作になるのではないだろうか。
筆者は『Mr.タスク』のカメオ出演で初めて彼女を目にして以来、初の主演作品である『コンビニ・ウォーズ』に続いて本作が目にした3作目になる。
両親の14光というだけではなくリリーの演技も悪いものではなかったので、英語も仏語も共に堪能な特技を活かしてこれから英語圏と仏語圏の様々な映画に出演していくのではないだろうか、そんな未来を感じさせた。
リリーの顔を眺めていると父親のジョニー・デップにも似ているし、母親のヴァネッサ・パラディにも似ているなと思う。むしろ3人ともみな同じような顔をしているように感じた。
夢見る映画プロデューサーのコルベンを演じるエマニュエル・サランジェの演技も良かった。
しかしどうしても本作にも既視感を強く感じる。
まずはじめに姉妹がスピリチュアリストである点になるが、スピリチュアルな映画は最近立て続けに公開されている。
筆者が観た中でも『パーソナル・ショッパー』『君は ひとり じゃない』に続き半年経たないうちに3作品目になる。
またコルベンはゲイであるが、ここ数年来ゲイ映画の氾濫で正直観疲れてきている。
そもそも作品中で彼がゲイである必然性を全く感じない。
さらに暗い時代の象徴としてやはりナチスの影が見え隠れする。
もういいよ、ナチスは…
それと意識しない映画でナチスが絡んで来ると、またか!とゲンナリしてしまう。
他に物語を豊かに色付ける設定はないのだろうか?
さすがにこの映画では鉤十字のドイツ軍服は登場せず、ドイツ占領下となったフランスで元々はユダヤ系ポーランド人のコルベンのフランス国籍をフランス人自体が剥奪し収監するようになっている。
近年フランスで議席数を伸ばしている「国民戦線」の創始者で今は実の娘に追放されてしまった親父のルペンが「フランスでのドイツの占領は非人道的ではなかった。国民は平穏に暮らしたものだ」と発言してフランス中から総スカンを食らったが、実際にはルペンの言ったことの方が正しかったのではないだろうか?
ナチスが虐殺する以前からユダヤ人は金貸しなどで儲けていたことや地域に根付かないなどのねたみやそねみが絡まってヨーロッパ中で嫌われていた。
だからドイツが占領したのをこれ幸いに各国人民は自ら進んでユダヤ人をドイツに差し出したのが真相である。
この描写だけは今まであまり見ないものだったので新鮮だった。
因みに日本では「日本のシンドラー」こと杉原千畝だけが人道的にユダヤ人を救ったかのように喧伝されているが、実際は東條英機をはじめ全政府・軍人・国民が同盟国であるドイツの反対を押し切って第三国へのユダヤ人の出国を黙認、あるいは積極的に支援していた。
女性監督レベッカ・ズロトヴスキのインタビューを読むとやはりこれからの世界が不安らしい。
たしかにヨーロッパ中でテロが頻発し、キリスト教の価値観も崩れ、EUは崩壊危機に瀕し、右翼と見なされる政党が各国で台頭している。
今まで信じていた価値観が揺さぶられる時代が到来している。
ただこの根本原因は全て極端なグローバリズムから起きていると筆者は思っている。
結局のところ人間はそれほど理性的に全てを割り切れるわけではないということだろう。
世界は1つにまとまるどころかますます各民族や国家ごとに分裂していくように筆者には思えるし、それが決して悪いことだとも思わない。
ズロトヴスキは「誹謗中傷、陰謀説、同性愛に関する嫌悪感、人種差別、反ユダヤ主義」などを凌駕するような映画を創ったと語っているが、豪語したわりには割と近年ありふれたアイコンを体裁良く並べただけの映画に映ってしまうのは何故か?
むしろそれらにこだわる限り独創性のあるものは産み出せないのではないかと危惧するのは筆者だけだろうか?
スピリチュアルを扱うのは諸刃の剣になりやすい。頼り過ぎるとなんだか胡散臭くなる。
本作におけるスピリチュアルは降霊術を中心としたもので、姉がビジネスに利用するなどどちらかと言えば否定的な印象を受けるので、それを回避したと言えるかもしれない。
ただいずれにしろスピリチュアルは日本も含め世界各国で盛んである。
それだけ世の中が不安定ということかもしれない。
ナタリー、リリー、サランジェらを中心とした俳優陣の演技は文句無く素晴らしかったので、それを堪能するためだけでもこの映画を観る価値はある。