劇場公開日 2017年1月21日

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「やるせねぇなぁ…では片付けられない普遍的なテーマ」沈黙 サイレンス どすこいたろうさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0やるせねぇなぁ…では片付けられない普遍的なテーマ

2024年8月15日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

知的

原作既読。

信教と正面から向き合い葛藤する、敬虔な宣教師ロドリゴ神父役にアンドリュー・ガーフィールド。切支丹でありながら幾度となく踏み絵に応じて生き延びていくキチジロー役を窪塚洋介。この配役は見事でした。イメージ通り……いや、それ以上。配役と演技だけでは無く、あらゆる面において原作以上の衝撃を受けました。

「神の沈黙」と「日本における異教の布教の難しさ」が本作のメインテーマにあると思いますが、非常に分かりやすく丁寧に描かれております。かなりの長尺ですが、全く退屈することなくぶっ続けで観れます。拷問や処刑のシーンにおける悲痛な叫び、踏み絵における極限の葛藤。これらの表現が非常に生々しく、残酷に描かれていて胸が締め付けられます。

前述した2人の俳優が素晴らしい!原作以上にロドリゴだし、原作以上にキチジロー。語彙力無さ過ぎてこんなことしか言えないのが悲しいですが、本当にそうなんです。

そういえば音楽ありました?終わった時にふと思ったのですが…。映画はやっぱりド派手なBGMで盛り上げてほしい!と、いつもは思っている私ですが、本作に関しては全く気にならなかったです。むしろその分登場人物に感情移入でき、心理描写を集中して観ることが出来たのかなぁと。しかし、160分をBGM無しで退屈させず、且つ緊張感を持続させて観せるというのは並大抵のことでは無い。マーティン・スコセッシ恐るべし。

ドストエフスキーも「カラマーゾフの兄弟」なんかで書いていた神の沈黙。百年以上前から問題提起されているこのテーマは、もはやキリスト教にとって普遍的な問題なのかもしれません。そして絶望の中に希望を見出し、盲信的になってしまう危険性も描かれています。その一方で、ある意味キチジローは賢く生きていると言えるし、卑怯ではあるかもしれませんがどこか現代的な印象もあります。

俳優の名演、途切れない緊張感、あまりにも残酷なキリシタン弾圧のストーリー。とてつもない重厚さで映画化された「沈黙」は紛れもない名作でした。

吹雪まんじゅう