劇場公開日 2017年1月21日

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「日本人とキリスト教の関わり方」沈黙 サイレンス 悶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0日本人とキリスト教の関わり方

2022年4月20日
PCから投稿

キリスト教を主題にした本作品だが、作者の遠藤周作は、著名な作家であるし、その代表作として、「沈黙」が挙げられることも、多くの方がご存じかと思います。
ただ、原作小説をどれだけの日本人が読んでいるかは、よく分かりません。
少なくとも、私は未読でした。

キリスト教を題材に、ということから、原作小説は、欧米でよく読まれているようです。
本作品の監督も、かなり以前に原作を読んで、映画化を長年考えていたとのこと。

ストーリーとしては、舞台は江戸時代初期。
ポルトガルの宣教師のロドリゴとガルベは、恩師の宣教師、フェレイラが、日本での布教中に、棄教したとの情報を得て、自ら日本に渡航する。
そこには、激しい弾圧を受けながらも信仰を続ける村民たちがいて、彼らに匿われる形で、布教をすることとなった。
果たして、フェレイラの棄教は事実なのか?そして、恩師に会うことはできるのか…。

この物語は、キリスト教をよく理解している日本人が原作だからこそ成立したものと思います。
物語では、キリスト教の宗教観と、日本人の宗教観が激しく対立する内容になっています。
しかし、キリスト教圏の国民が原作者であれば、日本人の宗教観を描けなかったでしょうし、逆に、一般的な日本人であれば、キリスト教の宗教観をここまで表現できなかったでしょう。

私は純粋な日本人なので、自分の宗教観を述べてみます。
仏教に関して言えば、親族の墓は、仏教寺院にあることから、仏教への関わりはあると思います。
また、神道に関して言えば、初詣に神社にお参りしたりするので、神道への関わりはある。
と、いうことで、神仏両方を信仰しているが、ただ、それほど熱意のある信仰ではない、というもの。
こんなところが平均的な日本人の宗教との関わりなのではないでしょうか。

しかし、こうした態度、つまり二つの宗教の掛け持ちもOKなどというのは、キリスト教信者からは考えられないことだと思います。
本作品では、この一つの宗教を徹底的に信奉するという宗教観を持つ信者が、その宗教が弾圧された時、信奉する神は、どんな救済をしてくれるのか、ということに真面目に取り組んだ作品であり、キリスト教とは無縁の私にも、その苦悩や辛さというのは、十分に伝わってきたと思います。

本作品は、宗教というものについて、深い思索を巡らした作品として、キリスト教の信者であるかどうかに関わらず、一見の価値のある作品だと感じました。
162分という長い作品ではありますが、緊張感が途切れることなく、鑑賞することができ、良作と言えると思います。

悶