「跳躍」咲 Saki O693さんの映画レビュー(感想・評価)
跳躍
『咲-Saki-』の実写化計画が発表されたのが2016年の9月ごろ。『咲 実写』という見慣れぬタグがトレンド入りしていたのを思い出します。
私と咲-Saki-の出会いをイチから書くと時間もかかるし、レビューとしてグダグダになると思うので割愛しますが、実写化発表の数ヶ月前に、なぜか、私のなかで咲熱が再燃していました。ですから、実写化の発表は、けして他人事ではなく、「あっ、進撃の巨人実写化するんだ」とか「黒執事ってそういや実写化してたね」とか、そういうふうにかるく受け止められるものではありませんでした。「え!? マジ?」という感じでした。
ときは流れて10月28日。この日は本作の主人公である宮永咲の誕生日でした。各所で例年通り咲の誕生日を祝う動きが見られる中、実写公式は動きます。
11時ちょうどに、ツイッターに一枚の画像をアップロードします。宮永咲を演じる、浜辺美波さんの画像でした。このとき、私のなかでは、(これはイケるのでは?)とかすかに光が見えてきました。ビジュアルが重要視される漫画であり、実写化もそれを気にする声が多かったものですから、浜辺さんの白さ(語彙不足)はじゅうぶんその不安を払拭できるものでした。
その後17時に一気に残りのキャラクター(龍門渕・風越・鶴賀・清澄)を公開していきます。浜辺さんに光を見ても、やっぱり気になるところはあるもので、清澄以外の三校は特別編まで出番がないだけに3ヶ月くらい落ち着きませんでした。特に龍門渕。もとからクセの強い学校ですから、実写化したら「そうなるわな」と思っちゃう。みんなばらばらの衣装(改造制服なのだ)で統一感がなく、髪の色も金だったり銀っぽかったりでカラフル。そして龍門渕の大将をつとめる天江衣を演じるのはなんと(撮影時)10歳の子役! 最近の子役は凄いですからなんとかしてくれるかなあ、と思いつつ、それでもやっぱり不安になりつつ……。(ケド、『衣演じるなら子役連れてこいよ。連れてこれるのかよ』というただ文句をぶつけるだけのツイートをはねのけることはできたのでちょっとすっきりしたり)
そして12月、TVドラマが始まります。
放送ギリギリまで懸念されていた須賀京太郎はオミットされ、咲が麻雀部に足を運ぶのは、同級生である原村和の学生証を届けるためということになりました。(※原作、アニメ1期では京太郎が咲を麻雀部に誘う)
基本的な流れは変わらず、咲は麻雀部の染谷まこ、片岡優希、そして原村和と対局し、毎回プラマイゼロという驚異的な打ち方をみせます。このへんは原作コミックス、またはアニメ、もしくはドラマを見てください。オリジナル回であるドラマ4話を除いて、県大会までの大まかな流れならほぼ総ての媒体で確認することはできると思います。
さて、こっからが映画の感想です。すみません、前置きが長くて。
全国高等学校麻雀選手権大会(インターハイ)長野県予選を映画では撮っています。今宮女子、千曲東、東福寺のちょっとしたキャラクターのちょっとした出番のためのすごい気合の入れ方はファン必見。演者の方々もお疲れ様でした。
カツ丼さんもとい藤田靖子プロ(演:夏菜)の「This Is 麻雀」、和の抱いているぬいぐるみ「エトペン」の盗難カット(その代わり眠っている咲が抱いて離さないので、会場にもっていけない)などオリジナル要素も光り、実写化に否定的な意見でよく見かける「原作にオリジナルを付け足す」もちょっと考えようかなあと思ったり。(まぁ、そういう場合はあれです。「要らない」オリジナルを付け足すってやつだと思います)
そして一番の変更点、天江衣の完全なる邪悪化(という言い方は失礼か)。両親を事故で亡くした衣は龍門渕の家にあずけられるが、衣の恐ろしさに怯えた龍門渕当主によって離れに幽閉されてしまう。学校にも通うが友だちができない。見かねた龍門渕の娘、龍門渕透華は各地から衣の遊び相手を見つける。(これがのちの龍門渕高校のメンバー)
つまり閉じこもってしまった子なんです。あとマスコミも嫌い。外界を拒絶しているかのような、うちに篭っているような子。
最後まで、龍門渕のメンバーを本当の友達だとは思ってはいません。(というかどこか懐疑的になっている)
原作では天真爛漫なこどものようなふるまいからとんでもない攻撃を仕掛けてくる、Sweet lil Devilとでもいいましょうか、いうならロリキャラです。
が、映画の衣、そうはいきません。完全に世界を恨んでます、あれは。
「死ぬときは一人だ」(うろ覚え)は多分映画オリジナルの台詞ですが、一気に天江衣、いや咲-Saki-全体の雰囲気を重くしました。喋り方もアニメとは違い、低く、ゆっくりと、一音一音に思いをのせるような、明るく振る舞う素振りをみせない。天江衣を演じた菊地麻衣さんのご両親。これを見たらどう思うんでしょうか。見終わったあとはぜひ菊地さんの好きなものをプレゼントしてあげてください。
ファンから長野編と呼ばれている部分を今回実写化しましたが、あらためて長野編は衣の解放をテーマにしてるような気がします。
「一緒に楽しもうよ」は原作、アニメ両方ネタにされつつあり、いまさら真面目に語るひとも少ないと思いますが、実写化という新たな、異質な媒体で見ると、やはりこうだよなあと思いました。咲も事情があって家族が分裂し、家にある雀卓を父親が売っちまうかと提案したときに「まだお母さんたち帰ってくるかも」と言って止めています。衣の両親はもう生き返ることはないですが、龍門渕という新しい家族があって、それを受け入れるまでの話。咲は、世界を拒む(または疑っている)衣に、「一緒に楽しもうよ」と提案をする。とてもいいシーンじゃないですか。実写だと衣が本当に恨んでる感もあって、一層それが強く見えました。また、最後の龍門渕の集合シーン。メンバーに囲まれ仲良く歩きだす衣を見送る透華。ここもオリジナルです。素晴らしい。あと、エスコートをアドリブでやるハギヨシ役の玉城さんもさすが。
そして最後、エンドロール。ここで流れる演者さんたちの笑顔。もちろんその中には衣を演じた菊地さんも。みなさん役の格好をしているので、衣がやっと解放されたという嬉しさがこみ上げてきます。しっかりエンドロールまで魅せる系の映画でした。
もちろん様々な不安不満はあります。が、ここで書くほどのものでもないし、それをじゅうぶんに補えるほどの力をこの映画は秘めていました。
ドラマ版が3.0だとしたらこの映画は4.0くらいあります。ドラマ版でちょっと手応え感じなかったひとは、ぜひ映画のほうもご覧になってください。
以上で感想終わります。ありがとうございました。(追伸:映画のディスクを予約しましたので、再度見直して手直しする場合がございますご了承ください)