「原作を台無しにした超大作」関ヶ原 鑑定人トマスさんの映画レビュー(感想・評価)
原作を台無しにした超大作
司馬遼太郎3巻の大作を映画にまとめるのは無理がある。とはいえ実績のある監督だけに期待値は高かった。しかし実際は気になる点がいつくかあり、観終わったあとの満足度は総じて低い。2時間半あまりの中に無理矢理入れ込んだ感が否めず、映画自体、金をかけたと思われる割に雑な作りである。
①展開が早い上に、背景などの説明がほとんどないので、司馬遼太郎の原作を読んでいないと理解は難しい。歴史的知識がない人にとっては、ただ長いだけの退屈な映画にすぎない。
②原作で大事な役割を演じた人物や場面の描写が省かれたり、そもそも登場しなかったりして、見せ場にかける。
・家康の野心を見抜く前田利家の描かれ方が薄い。
・大谷吉継が三成の出兵を諌める場面がない。
・直江状は出てこない(そもそも景勝が登場しない)。
・小山評定や、それにまつわる各武将のエピソードは全くでてこない。
・鳥居元忠が守る伏見城の攻防も出てこない。
結局、制作者は関ヶ原のチャンバラをド派手に見せたかったのだろうが、関ヶ原は、天下分け目の権謀術数や、東西いずれにつくべきかの心理描写などが醍醐味なのであって、原作からかなりかけ離れた感じがして残念である。
②役所広司の名演や平岳大の熱演には魅了されたが、何れの役者もセリフのあいだにいわゆる「間」がないので、セリフを味わう余韻がなく、とても頭がついていかない。しかも、方言が多すぎて、何を言っているのかわからない場面がある。島津の薩摩弁などはちんぷんかんぷん。制作者はリアリティを出したかったのだと思うが、映画は娯楽でもあるわけだから、多少方言は構わないが、わかり易さも考慮する配慮が必要ではないだろうか。
③制作者が注力したと思われる、関ヶ原の合戦のシーンだが、BGMが常に大音量で流れていて、これでは台詞回しが聞き取れない。せっかく、臨場感あふれる合戦シーンになっているのに、はっきり言って興ざめである。鍔迫り合いや、槍を合わせる音とか、馬の蹄の音などを活かした合戦シーンは考えなかったのだろうか。
追記 本作で失望された諸氏は、TBSでかつて制作されたドラマ『関ヶ原 三部作』を是非ご覧あるべし。原作にかなり忠実で、ド派手な合戦シーンはないかもしれないが、充分見応えがあり、奥行きのある秀作である。加藤剛、森繁久彌、三船敏郎、大友柳太朗、三國連太郎、杉村春子、宇野重吉、沢村貞子ほか、多士済済であり、その演技にグイグイ引き込まれてしまう。