「日本、日本人とキューバの意外な接点」エルネスト Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
日本、日本人とキューバの意外な接点
映画冒頭、キューバ革命の英雄チェ・ゲバラが、広島平和記念公園内の原爆死没者慰霊碑に献花するエピソードから始まる。
慰霊碑に刻まれた碑文、"安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから"の意味を尋ね、この文章の主語は誰なのか、を問う。もちろん日本人が作ったものだから、ゲバラの質問の意図するところは、"なぜ日本人はアメリカに原爆投下の責任を問わないのか"ということになる。
ここから映画は、米ソの核戦争の緊張が高まった"キューバ危機"下のハバナへ展開していく。
あまり知られていない日本とゲバラの接点。本作のタイトル"エルネスト"は、ゲバラの本名、"エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ"である。しかし本作の主人公はチェ・ゲバラではない。
ゲバラとともに、ボリビア戦線で闘い、共に1967年に命を落とした日系2世ボリビア人、"フレディ・前村・ウルタード"を描いている。ゲバラからファーストネームの"エルネスト"を戦士名として授けられたフレディ・前村を、オダギリジョーが演じ、その人物像に迫る。
映画として、ゲバラやフィデル・カストロ、また"キューバ危機"や"キューバ革命"を取り巻く世界を取り扱った作品は多くあるが、そこに日本や日本人が関わっていたという証言は新しい。本作のベースとなる原作「革命の侍」は、フレディの実姉マリーとその息子エクトルの共著であるが、阪本順治監督が脚色を施している。
映像はそれほど綺麗ではない。埃っぽいし、彩度を抑えた画作りで、むしろ1960年代の時代性を醸し出すためのフィルターを意図しているとしたら成功だ。とくに日本のシークエンスはセットや小道具、衣装やセリフに至るまで、"昭和"をリアルに再現している。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ(2005/2007/2012)をはじめとする、デジタルVFXで作られた、"小綺麗な昭和"はノスタルジーの美化であり、リアルではないと改めて思う。
ちなみに本作を観るにあたり、"キューバは医療大国である"ということも知っておいたほうがいい。国民の平均寿命は先進国並み。日本より国民所得は低いが、外科手術を含む多くの医療費が無料。国民ひとりあたりの医者の数や看護婦の数、病院のベッド数は日本を上回るという。
本作の主人公フレディ・前村は、ボリビア人で医者を志す青年。キューバに医学を学ぶために留学している。そしてキューバ革命に参加したチェ・ゲバラも、アルゼンチン人の医師であった。キューバという国において2人は外国人であり、医療に従事したという共通点を持つが、"ラテンアメリカ人"として参戦した、"人民解放のための革命"への想いが、淡々と綴られている。
日本でのシーンを除き、全編スペイン語の日本映画。肉体改造とスペイン語習得で撮影に臨んだ、オダギリジョーの迫真の演技に圧倒される。ゲバラとフレディ・前村がボリビア政府軍によって処刑されたのは1967年。まさに50周年である。ゲバラ霊廟に眠るフレディ・前村への敬意が込められた映画である。
(2017/10/6/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ/字幕表示なし)