「期待と違う物語」ブレードランナー 2049 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
期待と違う物語
字幕版を鑑賞。前作を見ていることが前提で作られている。ブレードランナーの前作は 35 年も前の作品で,最先端技術で作り出されたレプリカントと呼ばれる人造人間が,人類に対して反乱を企む話で,本物とレプリカントの区別をつけるのは非常に困難という設定であった。製品に寿命が設定できたり,改良型が容易に作れるなどの話から,てっきり人工物(ロボット)であると思っていたのだが,この続編では有機体であるという話になっていて,非常に戸惑いを覚えた。人間の細胞を利用したということであれば,成長には人間と同じ時間がかかるはずで,4年の寿命を設定などという前作の話は成立できなくなるはずである。
続編が作れるような話ではなかったはずだが,と思いながら見ていたのだが,どうやらこちらの全く期待していなかった方向に話が進んで行ってしまったようだった。ネタバレしなければ詳しくは述べられないのでストーリーに触れるのは自粛するが,こんな話を見に来たのではないという失望を禁じ得なかった。結局,老齢を迎えたハリソン・フォードの現在の姿を活かすためにはどうするか,というような企画で作られたものらしい。アメリカの映画人の考えそうなことである。
前作の世界観は非常に独特で,その後のあらゆる SF 作品に影響を及ぼし,似たような未来世界を展開する映画が頻出することとなったためか,今作はあえて前作のイメージから遠ざけたようなシーンが多かった。それがまた,オールドファンの期待を裏切ったと思う。あの世界でどのような話が続くのかと思って見に行ってみたら,全く別の世界で期待もしなかった話に繋がっていたというのが率直な感想である。
それぞれのシーンには,非常にコストがかかっており,CG にも力が入っているのは分かるが,残念ながら,ブレードランナーの世界はこれではないだろうという思いを終始拭い去ることができなかった。人造人間が人間と同じ有機体であるなら,痛みを感じない理由は何故なのかとか,全く腑に落ちない話になってしまっていた。
今作の主人公を演じたライアン・ゴズリングは,前作の意志の強そうなハリソン・フォードから程遠く,非常に気が弱そうな雰囲気が抜けず,信念を持って任務に当たっているという感じが薄かったのだが,あのような話になっていれば仕方がなかったのかも知れない。唯一の収穫はジョイ役のアナ・デ・アルマスであった。実態のないデータ空間だけの存在に過ぎない彼女の振舞いが,最も人間らしく,儚さを感じさせてくれたのは高く評価したい。彼女を見るためならもう一度行ってもいいかなと思ったほどである。
前作のヴァンゲリスの音楽は,電子楽器を多く使った道具立とは裏腹に,非常にシンプルでクラシカルな曲を書いていたのが印象的であったが,今作を担当したハンス・ジマーはヴァンゲリスの雰囲気を残しながら,かなり違った音楽を書いていた。前作の音楽は,雰囲気を醸し出すのに徹していて,決してストーリーの補助役などやっていなかったのだが,今作では主人公が自分の記憶を辿るシーンなどで押し付けがましいほどの音量で流され,個人的にはこれも違うだろうと言いたくなった。
製作総指揮に前作の監督だったリドリー・スコットを擁しておきながら,このような続編しか作れなかったということには,エイリアンの最新作で非常に感じたスコット監督の劣化を再確認したような気になってしまった。
(映像5+脚本2+役者4+音楽4+演出3)×4= 72 点。