「アンドロイドにもう一度夢を見させた真面目な続編。ただ少し物足りない点が。。」ブレードランナー 2049 ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
アンドロイドにもう一度夢を見させた真面目な続編。ただ少し物足りない点が。。
開始1秒で格の違いがわかるほどの映像。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の思い描くイメージは、インタビュー記事を見るに様々な専門家へのヒアリングを徹底して行い作り上げているので映像に説得力がある。スキがない。本作にも印象的なシーンはいくつもあった。本当に彼の作品は安心してお金を払い見ることができる。
ただし、本作には映像以外でスキがあるように思う。特に脚本だ。そこだけ残念であった。基本的にはレプリカントを追う内に自分の記憶(過去)との繋がりに気付いたK(ライアン・ゴズリング)の自分探しが軸である。そして、その記憶がかつてのデッカードとレイチェルにたどり着くという話だ。王道のミステリーサスペンスの脚本であるように思えるが、物足りない!回収しきれていない要素が多々ある。以下、3つほど例をあげる。
一つ目はウォレスが手掛けたレプリカントは命令に絶対服従であるという要素。無料公開されたショートムービーでも描かれるほど重要な要素である。
しかし、これが絵として感じられるシーンはなかった。単にレプリカントを再び製作するための理由付けでしかない。
もし描かれていたとすればラヴの涙である。ラヴは冷徹に任務をこなすが、誰かを殺す前には涙を流す。実は本心ではそんなことはしたくないのにウォレスに絶対服従という身体の動きを止めることが出来ないという葛藤なのかもしれないが、分かりづらい。Kも同じレプリカントなのであろうが、普通に言うこと聞いてない感じだし(笑)どのレプリカントも自由に行動してる感じで、この絶対服従という設定が一体誰に適応されているのか最後まで謎だった。
2つ目は空からの遠隔監視装置(ミサイル?付き)だ。正直最初にこのシーンを見たときはウォレスは誰でも空から簡単に殺せるという伏線であり、今はこの兵器が味方だが、彼らを敵に回した時には最悪の事態になるかもしれない。と思ったが、今後彼らはこいつを一切使わない。使い捨ての要素である。
3つ目はジョイとレジスタンスの関係。最終的に無関係であったということでしょうか。マリエッティの身体を使ってK(ジョー)とイチャイチャする目的と同時に彼を守るためにレジスタンスの監視を促した。彼女は実はaiでありながらレジスタンスになっていて、他のジョイとも記憶が共有化されており、デバイスが壊された時に彼女も消滅したかにみえたが、実は消滅していない。というのは私の考え過ぎであったのか。だとしたら本当にKとイチャイチャするためにマリエッティと同化しただけだったのか。「外部デバイスにしたらバックアップがないから人みたいに死んじゃうわよ」の言葉が嘘みたいにすぐ回収された(笑)ウォレスはジョイをモデルに使って新しいレプリカントを作ったり色々実験してるみたいだったからもう1捻りあるかと思ったが。。。
ライアン・ゴズリングの演技は最高だった。自分が特別な存在ではないと言い切られた時のあの佇まいはすごい。シルエットだけで語れるのか彼は。
デッカード(ハリソン・フォード)の登場シーンは予告で何度も見せられて感動が半減していたが、やはり彼は映るだけで画になるスターだと確信した。
しかし、この2人はバディには向いてないようで、出会いは感動したが、話のテンポはここから悪くなっていったように感じた。やはりブレードランナーには孤独が似合うのかな。犬もいつのまにか消えたし(笑)
特にラストのラヴとの戦闘シーンは、デッカードが溺れそうなのを背景に2人でもたもた殺し合っていて、どういう気持ちでこのシーンを見ればいいのかわからなかった。「ここでデッカードが溺れて死んじゃいました。」なんて展開にするわけはないので特にハラハラしなかった(笑)派手なドンパチはブレードランナーらしくないのでこれはこれでいいのかもしれないが。
結局ウォレスのラストシーンは全く印象に残らないほど、彼はこの映画で描ききれてはいない。もしかしたらリドリースコットは更なる続編も考えているのだろうか。
163分を使ってもまだまだ時間は足りなかったのか、2時間の前後編にしてもよかった気がする。
リドリー・スコットの最近のテーマは一貫しており、神と人間の関係を創造主と創造物の関係と捉えなおし、それを人間とレプリカント(アンドロイド)の関係(創造主と創造物)の関係に置き換えて神(人間)とはなんなのかという問いかけと、そして創造物がまた創造主へと変わる話を描いている。レプリカントが新たな創造主になるのだ。本作ではレプリカント(レイチェル)が子供を産むという奇跡として描き、リドリー・スコットのプロメテウス、エイリアン・コヴェナントでもアンドロイドが創造主になろうとする話が描れている。これはつまり神様に失望した創造物が自ら神様になろうとする話だと思う。
本作の脚本マイケル・グリーンはそのエイリアン・コヴェナントの原案も務めている。
(子産みは最近のSFのテーマの一つなのかもしれない。日本アニメ「正解するカド」でも異方存在と人間の間に子供が生まれるということを描いている。)
163分があっという間に感じるほど、本作は前作と同じように映像で語る作品になっていたと思う!そこは良かった!音声をオフにしても何が起きてるかわかる作品だ。
続編はあるんじゃないかと個人的には思いますが、ブレードランナーを映画館で観ることができてよかった。