「ブラックな風刺とピュアな心」オクジャ okja 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ブラックな風刺とピュアな心
ポン・ジュノ監督2017年の作品。
初の配信映画。
『スノーピアサー』に続く海外進出作。
巨大クリーチャー登場。
重層的な人間ドラマでもKO級サスペンス・ミステリーでもなく、ファンタジー。
ポン・ジュノの作品の中では一番の異色作かもしれない。
でも異色ながらも、要所要所きっちりと自分の作品に仕上げている。
まずはその前に、本作の概要。
巨大クリーチャーと言うと、すぐさま『グエムル』を思い浮かべる。が、あの“漢江の怪物”のような不気味で人を捕食するモンスターではない。
そもそもモンスターではなく、“アニマル”。
そして種類は、豚。
ポン・ジュノが“ベイブ”を…?
勿論ただの小豚ちゃん映画じゃない。
何故なら“オクジャ”とは、“スーパーピッグ”なのだ。
韓国の山奥で暮らす少女ミジャとその祖父。二人からたっぷり愛情注がれ、育てられたオクジャ。
身の丈は象以上。見た目は豚…と言うより、カバ。仕草やつぶらな瞳は犬みたい。結構可愛いんだな…。
知能も高い。ミジャの言葉を理解してるようであり、ミジャが崖から落ちそうになった時身を呈して助けたほど。
ミジャとは特に深い絆で結ばれている。飼い主とペットに非ず。種族を越えた友達で家族。
通常の豚より遥かに大きく、知能や愛情を持ち合わせている。
ここ韓国の山奥に住む新種で珍種の豚…?
発見されたのはチリ。
発見したのは大企業の“ミランド社”。
将来の食料問題を解決出来るかもしれない、大自然が産み出した“ミラクル・スーパー・ピッグ”。
…表向きは。
実際はミランド社が遺伝子操作で産み出したもの。
それをあたかも自然で産み出され発見したと偽り、世界中の農家の元で育成。育てられたスーパーピッグの中から優勝を選ぶコンテストを開き、大々的に世界へアピールと売り出す10年に渡るプロジェクト。
食料問題解決も建前。全ては大企業の金儲け。
それを知らぬは韓国の山奥でこのスーパーピッグと暮らす少女…。
変人動物学者が世界中のスーパーピッグを見て回り、何と優勝したのは、オクジャ!
よく分からないけど、オクジャが誉められてるようで、ミジャも嬉しい。
が、ここで本当の事を知る。優勝したスーパーピッグは最高品質の食用として…。
祖父も了承済み。報酬(黄金の豚の像)と引き換えに。
時すでに遅し。オクジャは連れて行かれた。
ミジャはオクジャを救出しようとする。まずはソウルのミランド支社へ。
オクジャを救出すべく、ミジャは支社内で一騒動。オクジャは輸送車に運ばれ、車にしがみついてカー・アクションまで。
そこへ、謎の集団が。どうやら彼らはオクジャの奪取や殺傷ではなく、ミランドに対しているよう。
一応目的は同じ。彼らの協力を得て、ミジャはオクジャの救出に成功する。
彼らは、動物解放戦線=ALF。
リーダーはジェイ。通訳のケイを通してオクジャを救出した本当の理由を明かす。
彼らの最終目的は、ミランドの横暴を暴く。それには証拠が必要。
オクジャを救出した理由は、オクジャに盗撮カメラを取り付け、ミランド本社に送り、虐待などの一部始終を撮る。
強制はしない。ミジャの同意を得た上で。同意が得られなければこの計画は中止。
オクジャを連れて帰る。ミジャは断るが…、ケイが嘘を付いて同意を得たと通訳。
哀れオクジャは助け出されたのに、ミランド社へ返される。コンテストが行われるNYへ。
ミランド社はソウルでの失態で世間の悪者扱いに。
そのイメージを払拭すべく、CEOのルーシーはコンテスト当日、オクジャとミジャの感動の再会を仕立て上げ、イメージ回復を狙う。ミジャをこちらの手中に。
一方のALFはオクジャに取り付けたカメラによって虐待の証拠を撮る事に成功。これをコンテスト当日に電波をジャックして、公です晒す。
ミランドの思惑、ALFの計画…。
その板挟みのミジャとオクジャ。一人と一頭はただ再会し、以前のように家に帰って静かに暮らしたいだけなのに…。
『スノーピアサー』に続き国際色豊かな顔触れ。
ミランド社現CEOにティルダ・スウィントン。双子の姉の前CEOにもティルダ・スウィントン。凝ったメイクと演じ分けで、『スノーピアサー』の怪演の期待に応える一人二役。
今回の怪演度ではジェイク・ギレンホールだろう。イカレ動物学者をハイテンションに。
今春の“コウモリ映画”ではテロリストを戦慄に演じたポール・ダノだが、本作ではテロ行為と信念の狭間スレスレを。
韓国キャストには、スティーヴン・ユァンやチェ・ウシク。本作の後、『パラサイト』や『ミナリ』でオスカーを賑わすキャストが。
だけど本作の主役はやはり、ミジャとオクジャ。
ミジャ役のアン・ソヒョンは特別可愛い子役ではないが、まだ垢抜けてないナチュラルな姿が健気さを滲み出す。
CGで創造されたオクジャがハイクオリティー。本当に“実在の動物”のような錯覚。
ポン・ジュノの作品としては強烈インパクトは薄く、話自体も割りとシンプル。『殺人の追憶』『グエムル』『母なる証明』『スノーピアサー』などを期待すると、ちと物足りないかも。
でも、ちゃんと“ポン・ジュノ色”は塗られている。
見ればすぐ分かる。本作は、資本主義や遺伝子操作などへの痛烈な風刺。ミランド社のCEOや重役らの傲慢で滑稽な描かれ方を見よ。幾らミランド社が造り出したとは言え、生命あるものへの酷い仕打ち。
一人の少女が見た異国社会の不条理でもある。ミランドには会社の為に利用され、ALFには闘いの助力とされ…。純真無垢なる存在は、いいようにもみくちゃにされる。
ALFは実在の組織。調べてみたら、テロ行為も辞さない過激派。色々と事件も起こし、テロ集団にも選別されてるらしい。劇中でも虐げられる動物を解放しようとする様も描かれる一方、手段を厭わず、信条に反した仲間に制裁を加える様も。
ポン・ジュノは常に社会的弱者の立場から、権力の横暴と闘い、社会の不条理を訴える。
こういう作品を見ると、食物連鎖について考えさせられる。
生命ある動物を殺して、食べるなんて!
豚や牛や鳥や魚をこれからもう食べない!…なんて、やはり出来ない。
お肉は大好き。訴えを充分理解しつつ、それでも他動物を食べてしまう人間の不条理な性。
ポン・ジュノらしさを込めつつ、これまで最も優しく、マイルドな作風。
ラストシーンもしみじみ余韻が残る。
強烈インパクトの作品はあくまで“才能”であって、ひょっとしたらこれが、本当の顔なのかもしれない。
ポン・ジュノのピュアな心が表された、ハートフル・ファンタジー。