「家畜に名前をつけるな」オクジャ okja ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
家畜に名前をつけるな
「パラサイト」の流れでNetflix視聴。
第一幕、なんならファーストシーンからいろいろセッティングがうまく行ってないのでは…と思った懸念はラストに至り間違ってなかったとわかる。
いろいろ気になる点があり、イマイチ乗れないまま終幕。
そもそも大企業に見込まれた「優秀な」農家のはずでは…?
職業倫理として、名前つけてる時点でおかしくない?
他の豚もいない農家に貴重なサンプルを預けるとか、どういう基準で選んだの?
たとえば主人公の両親が健在の時はもっと大がかりな畜産をやっていて、指名されたものの不幸があって規模縮小となり、親をなくした主人公と友人のように育てられた、とか全力でフォローできなくはないけど、それだと結局内輪の問題になっちゃう。
なによりオクジャが可愛くない。見た目が豚というよりカバだし。リアルな質感をだそうとしてるのはわかるけど、あんまり豚感がない。
こんなにかわいい豚をおいしくいただいちゃう残酷、てのがこの話のキモでは?
あと、主人公が「親友」のレイプ&肉サンプル摂りのトラウマに直面させられなかったのは、欧米流のコンプラが立ちはだかった結果?
序盤のトトロ的な雰囲気と中盤からのET的チェイス、悪趣味な資本家たちの戯画化、食品産業と消費の矛盾、欧米とアジアの落差など、各要素がバラバラ、ガタガタしたまま進んでいって、まとまらずに終わる。
ネタはいいのにもったいない。とくに翻訳の件とか、冴えてたと思う。
結局のところ主人公ミジャはどう成長したんだろうか。
自分にとっては無二の親友でも、他者にとってはただの「商品」に過ぎない現実を受け入れた=大人の階段登った、ってことなのかなあ…
漫画「シュナの旅」で主人公がヒロインを金で買わずに奴隷商人から救い出すというくだりがあったけど、それの真逆を行ったみたいな。
宮崎駿が絶対に選ばないだろうオチだし、そもそもオクジャをずっと愛らしく描いたろうな。違うからダメってことじゃないけど、中途半端なオマージュ入ってるだけに、どうしてもここは? ここは? と比べてしまう。
倫理的に正しいかどうかは別として、少なくとも主人公の目にはかわいい、大切な相棒なのに、伝わってこないのが残念。
所詮、すべては幕切れのやるせなさにたどり着くための道具立てに過ぎないのか。
家畜につけた名前がタイトルで、その子だけは救い出せたけど、名もなき他の仲間たちは家畜として殺されていく、たとえ主人公でもそういう世界の構造を変える力はない、なす術なく見送る他はない無力感、そして現実の食肉産業へとつながっていく…という徹底した豚目線。
ただ、ここに至っても私の脳内には疑問が浮かんでいた。
①オクジャは世界一のエリート豚なのに、見分けがつかないほど他の豚も立派な体格でいいのだろうか
②そんな豚が無数に集められているなら、王蟲のように雪崩をうって走り出せば、あんな電気柵なぎ倒せるのでは?
そういう細かいところを押さえてないから、ご都合に感じてしまう。
そもそも、混乱は初手でオクジャが世界一の豚に選ばれた理由が不明瞭なことから始まっていた。
そりゃいい環境で伸び伸び育ったんでしょうけど、なにをもって「世界一素晴らしい」のか明確に定義されていない。
大きさなのか? 味なのか?
(そもそもスーパー豚のメリットってなに? 身体が大きくて歩留まりがいいってこと? 普通の豚は生後半年で出荷されるのに?)
これって結構大きなつまづきなんでは。
たとえばいるはずのない宇宙人なら、即座に追いかけっこが始まってもOKだけど、そもそも独自設定の「スーパー豚」の、中でも別格でスペシャルな一頭とか言われたら、いろいろ説明がいるよね、という。
なのでもしや残りの25頭があとから合流する流れが来るのかと思っていた。八犬伝か。
ささやかな希望を託すような幕切れはまあいいとして、回収されなかったレイプの件はもしや妊娠の可能性? と最後まで待っていたため、なんだかモヤモヤしたまま終わってしまった。
単に食の矛盾を訴えるだけなら、淡々としたドキュメンタリーで充分じゃないかな。
少なくともわざわざ予算をかけて作為を加えるからには、もうワンステップなにかが欲しかった。
まだスノーピアサーの方が楽しめたなあ。
エコテロリストたちがあの程度の行動でドヤってるのもちょっと。それこそ現実の活動家みたく最初から電気柵を切ったりしとけばよかったのに。
全力で小者を演じるティルダ様も素敵だけど、ぶっちゃけあの姉妹の葛藤とか別にいらなくね? っていう。やるにしてもあそこまでボリュームがあるとバランスが悪い。
キャストがノリノリなのはいいんだけど、手綱を引くのは監督の仕事では。
もったいつけて登場したラスボスの割にあの対決、イージー過ぎません?
ポンジュノはもっとそつなくやると思っていたので意外だった。
ジュブナイル的なネタに向いてないのかな。