「感動のオブラートに包んだ卑怯な反日映画」ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
感動のオブラートに包んだ卑怯な反日映画
戦時中の日本をテーマにした映画はだいたいステレオタイプな日本を悪者にした映画が多いので普段は観ないのだが、今回はむしろどれだけ酷いものなのか興味が涌いたので観ることにした。
結論から言えば、全体的な俳優の演技はなかなか良かったが、内容は案の定、この低度だろう、という酷いものであった。
満洲国を、今漢族はわざわざ「偽満洲国」と呼んでいる。
なお溥儀が皇帝について後の正式名称は「大満洲帝国」である。
筆者は大学時代に東洋史を専攻していて、また北京に留学していたこともあるので、我が家には中華書局発行の『史記』から『清史稿』までの原文の歴代二十四史すべてがある。
だいたい次の王朝が前の王朝の歴史を編纂するので、自らの建国の正当性を主張するため、前王朝を必要以上に貶める傾向がある。
そのため国家編纂の正史のはずなのに後世から見ると嘘が多いため「偽史学」という学問まである。
前王朝の初代ぐらいは持ち上げたりするので、初代皇帝が生まれた時は鳳凰が屋根に止まったとか、目の中に瞳が2つあったとか書かれていてほぼテンプレート化されていたりする。
なので現在の共産党がことさらに誇張して日本を歴史で叩くのも同じことである。
もちろん自分たちの不都合を隠すのも昔から変わらない。
さて満洲国の皇帝溥儀は清のラストエンペラーだが、なぜ彼が満洲国の建国に力を貸すようになったのだろうか。
清が倒された後、漢族によって西太后の墓が暴かれ、金目の物は持ち逃げされ、西太后の屍体がレイプされたことが大きな引き金になっている。
また元々満洲国の領域自体は満洲族の土地なので漢族がとやかく口を挟む権利はない。
本作では満漢全席は満洲族と漢族の融和の象徴だとの話があったが、実際は違う。
残念ながら満洲族にとって漢族は差別する対象でしかなかった。
満洲族統治前の漢族は髪に霊力が宿ると信じていたため髪を伸ばしっぱなしにしていた。
ただ満洲族にはその習慣は不潔に映ったらしく、『キン肉マン』のラーメンマンのような弁髪を強要させ、言うことを聞かない漢族はどんどん処刑した。
しかも満洲族やモンゴル族、ウイグル族には弁髪を強要しなかった。
また日本の大奥に当たる皇宮にもモンゴル族とウイグル族は入れたが、漢族は許されなかった。
本作では漢族の呼び方も厳密にはおかしい。
「中国人」という呼び方は当時存在しない。「支那人」が一般的で、そうでなければ「漢人」だろう。
また竹野内豊演じる三宅太蔵が兼松若人演じる楊晴明を共産党のスパイに仕立てようとする設定になっているが、大陸で支那事変の間中日本が終戦まで戦っていたのは国民党である。
当時の共産党は匪賊や馬賊といわれる当の漢族からも嫌われていたほとんど山賊みたいなものであり、おそらく日本軍人は共産党を全く意識していなかっただろう。なので国民党のスパイならまだわかる。
1937年の盧溝橋事件でも衝突したのは日本軍と国民党軍である。
ただこの事件も裏で暗躍していたのは共産党なので、実際には満洲国にも多くの共産党のスパイが入り込んではいただろう。
しかし、当時の日本軍には共産党が眼中になかったという話である。
本作ではまるで現在の共産党のプロパガンダよろしく日本は共産党と戦っていたかのような誤解を与えている。
因みにこの盧溝橋には抗日戦争記念館があり、筆者も北京留学中に数回足を運んでいる。
館内は共産党の歴史観が反映された展示が続き、外には4章仕立ての共産党の正当性を誇示する石像が40個ほどある。(現在は知らない)
館内展示・石像ともに日本語・英語・漢語の説明文があるのだが、日本語では「日本兵」と書かれている単語が英語では「Jap」になっていた。
アメリカですら今や公の場所で使用しているとは思えなかったので、21世紀にもなって「Jap」か!と驚いた。
また同時に日本人にもすぐわかるだろうにこのような蔑視表現を平然と表記するのは馬鹿なのか?とも思った。
それから館内で使用されている写真の説明も酷かった。
1人の漢族女性が軍人に連れられている写真の説明に「この女性の太腿から肉をそいで餃子にして食べた」とか書かれていた。もちろん肉をそいでいる写真ではない。
孔子も人を食べていたようだし、三国志にも最高の客へのもてなしとして自分の妻子を食べさせるエピソードがあったり、むしろ古代から食人の習慣があるのは日本人ではなく漢族である。
また凄惨な写真がたくさんあって全て日本軍がしたことにされていたが、それらは本当は「通州事件」の写真であったり、プロパンガンダとして捏造したやらせ写真であったりする。
「通州事件」とは、国民党軍が日本人居留民約380人の家を一軒残らず襲撃し、略奪・暴行・レイプなどを行ない、その大部分を筆舌に尽くし難い方法で惨殺した事件である。
やっと最近になって日本はこの事件をユネスコの世界記憶遺産に申請した。
劇中で鈴木料理長が「何をやってたんだろうな?私たちは…人様の国で…」とつぶやくシーンがあるが、この言葉はそっくりそのまま今の漢族に返してあげたい。
満洲を征服し、現在もチベット・南モンゴル・ウイグルと人様の土地を占領しているのは漢族である。
また「大日本帝国食菜全席」の創造自体が竹野内の陰謀だったわけだが、暗殺未遂に止めるとはいえ、いくらなんでも天皇陛下を利用するなどという馬鹿げた計画を思いつく帝国軍人が当時存在するとは思えない。
この設定そのものが日本人を馬鹿にしているし、当時の軍人を貶めている。
どうして日本人が日本を貶める映画を制作するのだろうか?筆者は理解に苦しむ。
また楊晴明を演じた兼松若人も笈田ヨシも北京普通話の発音がネイティヴに聞こえない。
日本語をある程度話せる台湾人俳優などの起用を考えても良かったのではないだろうか?
本作は秋元康が企画しているし、監督は米アカデミー賞外国語映画賞を『おくりびと』で受賞した滝田洋二郎である。
俳優も二宮和也や西島秀俊をはじめ素晴らしい面々が出演している。
オープンセットで当時の満洲の街並みを再現するなどそれなりにお金もかけている。登場する料理の数々も手がこんでいてとても美味しそうだった。
本作の演出が原作小説通りなのか改変されているのかはわからないが、このような感動作品にひそかに反日を潜ませる手法は一番卑怯だ。
事実を知らない人々にせっせと反日を刷り込んでいる。
これからまさに激動の時代が訪れようとする中、日本人は日本人であることに誇りを持って未来を切り開くべきではないかと筆者は考える。
こういう映画が制作されること自体が一日本国民として悲しく思う。