「設定に無理がありすぎ」サバイバルファミリー uttiee56さんの映画レビュー(感想・評価)
設定に無理がありすぎ
この映画で描かれる災害とは、ある日突然、電気で動く物がすべて動かなくなる、という荒唐無稽なものである。発電所から電気が供給されなくなる「停電」ではなく、電池で動作するものまですべて動かなるなるのである。そんなことが現実にありえるのかというと、これは絶対にありえない。EMP爆弾による攻撃でもあれば、半導体を使った電子回路はすべて破壊されるが、懐中電灯のような半導体を使っていない単純な電気製品まで動かなくなるということは絶対にあり得ない。
もし仮にそんなことがあるとしたら、発生1日目にしてすべての交通機関が(麻痺ではなくて)暴走するから想像を絶する惨劇が発生するし、すべての通信手段が絶たれるから政府も手の打ちようがないし、生産も流通も絶たれるから商店の在庫は3日も持たないし、呑気に歩いて会社に行けるような状況ではないだろう。
もちろんフィクションなのだから荒唐無稽な絵空事を描いても良いのだが、それならばなおのこと、その実在を観客に信じさせるだけの作り込みが必要である。この映画のテーマは災害シミュレーションではなく家族の絆なのだと言われても、観客が絵空事だと思って見てしまったら、そんなものが響くはずがない。
最後に一家が東京に戻ってくるのもおかしい。映画の始まりに比べて家族の結束が強くなったことを象徴的に描いているのは良いのだが、あれだけ田舎讃歌を描いておいて、一家も田舎の生活に適応したのだから、わざわざ東京に戻ってくる理由がない。
割と最近に「東京マグニチュード8.0」という傑作災害シミュレーションアニメを見たためか辛口評価になってしまう。災害を絵空事だと思わせないように徹底的にシミュレーションして作ったアニメと、適当に作った実写と、どちらが人間をより深く描いているか、言わずもがなである。
(2019/1/13追記)
違和感の正体がわかったような気がする。
「電気の供給が止まる」ではなくて「電気そのものが消滅する」という発想が、「災害シミュレーション」ではなくて「文明の否定」を意図したものであるからだ。
そりゃ、田舎礼賛もするでしょう。その田舎だって文明に支えられていることはスルーするんだから、欺瞞極まりない。
とはいえ、悪い意味ではあるが、半年以上たっても印象に残っていて、こうやって批判を搔いているんだから、見る価値はある映画なのだろう。