「頑固な主人公が、後半たまらなく愛おしく見えてくる」幸せなひとりぼっち 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
頑固な主人公が、後半たまらなく愛おしく見えてくる
<寺田心くんが試写会ゲストに!>
先ずは試写会ゲストの寺田心くんの可愛さに、観客から黄色い感性がこだましました。 開口一番「ひとりぼっちなのに幸せってなんだろうって考えた」と大人顔負けの感想を述べると客席からうなり声があがりました。さらに「映画の中で“誰もが死からは逃れられない”という言葉があるんですけど、僕もあらためて一日一日を大切に生きようと思いました」という感想に、会場からは「おおーっ」と感嘆の声が。
トドメは、「印象に残ったシーンは?」と聞かれた心くんが、「主人公のおじいさんが、死んだおばあさんの衣装に残った香りをかいで、懐かしんでいるシーンです。」「ぼくも急にお母さんのことを思い出して、淋しくなりました」と答えてくれたことです。
なんてかわいいコメントをする子なんだろうと感心しました。こんなこと言われると、女性の観客なら胸がキュンと締め付けられますね(^。^)
<いまスウェーデン映画が熱い!>
『リリーのすべて』がアカデミー賞など、助演女優賞を受賞するなど、世界的に注目される存在となったスウェーデン映画界。苦いユーモアに、やさしさと悲しさを込めたストーリーが人気の秘密なのでしょう。本作も世界200万部発行のベストセラーが原作だけに、予告編で感動しました。
本作は、妻を亡くして生きる希望を見出せなくなった頑固な老人が、隣に引っ越してきた家族との交流を通して心を開いていくヒューマンドラマです。
寺田心くんが指摘したタイトルの矛楯。なんで幸せなのにひとりぼっちなのと改めて聞かれると、なるほど、おかしなタイトルだなとは思います。ただ本作を見ていると孤高な主人公でも、近隣の多くの住民に支えられて生きていることが分かります。そこが見えてきたら、羨ましいくらい日々を幸せに過ごしていることに気がつくことでしょう。他者がいてこその己の人生。ハンネス・ホルム監督は、オーヴェの悲喜こもごもを通してシンプルな真実を浮かび上がらせてくれました。べたべたせず、たんたんと。その節度に満ちた語り口が好もしい感じられました。何より、妻との出会い、愛を育んでいく回想場面が、実に素直でほほ笑ましく、心を揺さぶられることでしょう。夫婦の愛の描写と新たな愛情に包まれていく姿のバランスも絶妙です。
主人公オーヴェ役のラスゴードが、全身からにじませる頑固で古風な男の意地と悲哀にも、ぐっとくることでしょう。取るに足らぬ人などいません。見終わった後は素直にそう思えました。
余談ですが、劇中に登場する主人公の「宿敵」の野良猫ちゃんの、追い払おうとしても動じない大物ぶりにも注目です。あんなにネコ嫌いたぜったのににゃ~、なんてね(^^ゞ
<物語は…>
主人公のオーヴェは、愛妻ソーニャが死んでからといもの、頑固ぶりは増すばかりでした。例えば、共同住宅地域内の規則厳守を要求するあまり、自治会長の役を降ろされてしまいます。何しろ自動車の乗り入れ禁止では身体をはってまで車を止めるのです。当然タバコの吸い殻のポイ捨てだって見逃しません。見つけ次第徹底して怒鳴り散らすのです。たとえ市の職員が公用で訪ねてきたとしても容赦はしませんでした。そんな規律に厳しく頑固なオーヴェのキャラクターが可笑しかったです。
また親子二代・43年間、現場で叩き上げた鉄道局職員の仕事も、管理職の若造に時代遅れの役立たずと、解雇されてしまいます。餞別はシャベル1丁でした。失意のオーヴェでしたが、墓参の時だけは、寂しい気持ちを素直に吐露できます。妻への祈りを捧げていると、もうこの世に未練が無くなって、ソーニャの元に旅立ちたいという気持ちがこみ上げてくるのです。
けれども、ソーニャ彼らのもとに旅立とうとする度、必ず邪魔が入るのです。その絶妙すぎるタイミングには、毎回笑ってしまいました。その主なきっかけとなるのが、向かいの家に引っ越してきたイラン人家族が何かにつけて、頼ってくること。
一家は引っ越し早々にからして、オーヴェの家の郵便受けに車をぶつけてしまい、そのためオーヴェは自殺どころではなくなってしまったうのです。
怒り心頭のオーヴェは、文句を言いながらも、自分で車を運転して駐車場にきちんと停めてやり、さっさと自分の家に戻ってしまうのです。親切なのか嫌味なのか。他人もきちんとしないと気が済まない性格なのでした。そんなところが頑固親父の面目躍如であり、いろいろ面倒を頼まれてしまうと、仕方なく自殺を延期してしまうオーヴェなのでした。
一家のなかでも、妻であり母親のパルヴァネは、料理上手な妊娠中の母。オーヴェとは真逆の人見知りしない性格で、オーヴェの心の内に貯めていたものを、優しく聞き出していくのです。おかげで、ふたりは仲良くなり、頑固なオーヴェの心も次第に開かれていきます。ふたりの会話によって、オーヴェと亡くなった妻ソーニャの出会いや、自治会活動で規約作りに奮闘し合った盟友との仲直りなど、彼の過去が語られていく展開に。彼の物語を深く知るにつれ、変人と思っていたオーヴェがたまらなく愛おしく思えてきました。
気がつけば、妻に先立たれて孤独だと思っていたオーヴェの廻りには、彼を慕い頼りとする住民で溢れていたのです。
まるでパネルを積み重ねるように描き出されるオーヴェの日常の真実には、人ひとりが生きる意味、そしてそれを輝かせるもの感じずにいられないでしょう。
年末に、疲れた心を温かくさせてくれる良質の映画としてお勧めします。