「ジョン・ラセターが、自分自身と宮崎駿に捧げた作品」カーズ クロスロード Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ジョン・ラセターが、自分自身と宮崎駿に捧げた作品
意外なエンディングにびっくりする。完全に観客はミスリードされているからだ。
ピクサーアニメの数々の名作を生み出し、いまやディズニーアニメ全体の総帥であるジョン・ラセター。ラセターは親友の宮崎駿監督に言及して、"宮崎さんは新しい映画を今作っていて、私はそのことにすごく興奮している"、"宮崎さんにはまだ伝えたい話がいっぱいあるんだって。マックィーンのように彼も走り続けるだろうね!"というエールが、ニュースになった。
これで、本作のイメージは決定的になった。
主人公のライトニング・マックィーンは、すでにベテランの域に達している。新しい才能の波が押し寄せてくるなか、レース中にクラッシュ事故を起こす。これは第1作で新人だったマックィーンを諭した伝説のレーサー、ドック(ハドソン・ホーネット)と同じ境遇を想起させる。
ここから若手トレーナーのクルーズ・ラミレスに出逢い、レースに復帰するためのトレーニングが始まる・・・。我々は再起をめざすマックィーンの奮闘を応援し、それこそ「ロッキー3」(1983)を期待するわけだ。
今回、ジョン・ラセターはプロデューサーに下がって(前作までは監督)、ライフワークのひとつである「カーズ3」に臨んだ。プライベートでも超クルママニアだけあって、今回も徹底したこだわりである。クルマ好き・カーレース好きなら、その細部にわたる表現に興奮するはずだ。
日本では、オーバルコース(円形の周回コース)のカートよりも、F1などのロードコース方が人気がある。また今年、佐藤琢磨が日本人として史上初めてインディ500マイルに優勝した快挙も、それほど大ニュースにならなかった(なでしこジャパン並みだと思う)。
だからなのか、本シリーズはディズニーアニメとしては、あまり大ヒットしない(とはいっても20~30億円はいくので比較作品が大きすぎるか)。しかし、この作品のカメラワークは、アクセルを踏み続け、ポジショニングの駆け引きをするオーバルの魅力をわかりやすく伝えてくれる。
ラセターは、"この話はマックイーンが、キャリアの後半で何をすべきかを考えようとする内容なんだ"と語る。本作は、大きな成功を残し、いまなお第一線で活躍する人の目線で作られた、世代交代の作品になっている。残念ながら明日を夢見て、くすぶっている人たちへの救いの映画ではない。
宮崎監督のエールであると同時に、自分自身のストーリーなのかもしれない。
(2017/7/16/TOHOシネマズ日本橋/シネスコ/字幕:益江貴子)