「トニ・コレットの名演。女同士の友情物語。」マイ・ベスト・フレンド 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
トニ・コレットの名演。女同士の友情物語。
乳がんと闘う女性を描く映画と聞くと、あまりにも感傷的な泣かせに走るのではないか?という恐れと、逆に、癌を言い訳にやりたい放題するだけの映画ではないか?という不安が脳裏をよぎる。この「マイ・ベスト・フレンド」は辛うじて、そのどちらにも傾き過ぎないところを綱渡りする。が、若干後者の方のニオイはある。病気を盾にやりたい放題し、それを責められると今度は病気を武器にするような、そんな要素が見えないわけでもない。2人の主人公はそれぞれ病気と妊娠を武器に、夫に当たっているとしか見えないシーンが数々あり、なんだか見ていてその都度、男の人ばかり責められていて気の毒だ、と夫役のドミニク・クーパーたちに同情してしまいたくなった。
とは言え、がんという病気の持つイメージの深刻さから、フィクションだと必要以上に病状を重く描きがちだったりする中で、この映画はよりリアルに近い形でがん治療を描こうとされており、人々ががんに対して抱くちょっとした誤解をさりげなく解いている感じは非常に好感が持てた。
この映画が涙で湿っぽくなりすぎないのは、乳がんに侵されていく女性を演じたトニ・コレットの演技に、生命のダイナミックさとユーモアがふんだんに取り込まれていたからだと思う。もともとドラマティックな役も喜劇センスも両方兼ね備えた大好きな女優さんだが、この作品の役への入り込み方が素晴らしく、たった1本の映画の中だけで女性の人生のあらゆる様子を見事にスケッチして体現して見せる。女優冥利に尽きるような役柄であったその分、誰にでもできる役柄ではなかっただけに、トニ・コレットがまったく肩ひじ張らずにそれをやり切ったのが清々しくさえあった。もちろん、親友のドリュー・バリモアの温かみと親しみのある存在感と演技も本当に素晴らしかった。
先ほど、「男の人ばかり責められて―」という書き方をしたけれど、かと言ってこの映画を全くの女性本位という風には感じなかった。むしろ、この映画に登場する男性は、女性に寄り添える理解力を持った男性のように見えて、それぞれに病気と不妊で苦しんでいる妻を持つ夫としての苦悩がちゃんと透けて見える描かれ方をしていたのは良かった。それぞれが、病と不妊治療を理由にセックスレスになってしまった時に、「だったら俺たちが結ばれれば済むんじゃない?」なんてジョークを言って笑ってくれるその懐を感じられたところに、なにか彼らの愛情深さが象徴されていたなぁという気がした。まぁ、それ全体をして「男にばかり理解を求める女性本位の幻想」を否定はしないのですが。
実際には私ががんに侵された経験がなく、ただ身近にがんと闘った人物が数人いるため、こういう作品ではついついドリュー・バリモアやドミニク・クーパーの方の立場の気持ちをより理解してしまいます。「あなたはいずれ死ぬから好き放題したいかもしれないけど、あなたがいなくなった後も私たちは何十年も生きなければならない!」という、絶対に口にしてはならない苦しみのことを思い出し、トニ・コレットが自由を気取る度にとてももどかしく、辛く、やりきれなかった。
最後に、バリモアの不妊→妊娠は、予告編では「なるほど」と思ったものの、本編を見るとさほど効果的に機能してはいなかったかな?という気もした。