「思い通りにならない人生、苦しみながらもどう生きるか?」幼な子われらに生まれ Koheiさんの映画レビュー(感想・評価)
思い通りにならない人生、苦しみながらもどう生きるか?
ただでさえ人の一生は複雑怪奇である。「摩擦は0とする」などと物理の教科書に但し書きされていたのをふと思い出したが、それとは全くの正反対なものである。毎日が摩擦だらけで、何事もなく穏便に進むことはままならない。思い通りにいくことの方が少ない。良いことよりも悪いことの方がずっと多く感じる。甘い期待もあっけなく裏切られる。思い通りにならないことが人の一生の本来の姿であると思う。名家に生まれ、将来の安寧を担保されたとて、必ずしもそうはいかない。歴史に残る数々の出来事を振り返っても、人間社会そのものが混沌である。
結婚・離婚・再婚という大きな出来事を一生のうちに経験するということをどれだけの人間が前もって想定して生きているだろうか。せめて、結婚くらいはまだしも、それ以降というのは、そもそも家庭環境にもよるが、初めから想像することは難しい。誰しも、一度は明るくて穏やかな家庭に憧憬の念をそれとなくでも抱くものであろう。この作品に登場する(おおよそ)全ての人物が“一度は”そう願ったものである。しかし、決して穏やかならぬ人生が交錯し、それは容易に実現し難いものとなった。やはり、思い通りにいかないのが人の一生であるということを改めて思い出せる展開が、作品全体を通して繰り広げられる。
「幼な子」がこの世に生を受けんとすることも、ある人にとっては幸せな将来を思い描かせるが、一方で、またある人にとっては、いやはやそうではない。一つの家族であっても、登場人物それぞれに立場が異なるがゆえに、バラバラな方向を向いてしまっている点が、この作品の悲しいところである。だが、それは、誰しもが何らかの不安や恐れを抱えながら生きているということもまた表現している。穏やかならぬ不確かな一生を歩んでいくための答えは、もがき苦しみながらも自分で見つけ出さなければならない。私はそのようなメッセージを感じ取った。全てが丸く収まることなど、現実ではあり得ないのだから。