「観て良かった。ただしツッコミも…」八重子のハミング 一姫二太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
観て良かった。ただしツッコミも…
役者さんは熱演されています。山口弁も所々変に標準語ですが頑張って下さり大いに感謝。
夫がする妻の介護、若年性アルツハイマー、介護の為のリタイヤ、等増えつつある社会問題の現実を垣間見る興味深い作品です。
その上で、
「貴方のガン(との闘い)の為に八重子さんがアルツハイマーになった」という因果を含められ主人公が納得する冒頭に対して、八重子さんが亡くなられた際は母親娘それぞれの立場からもっと深みある受け止めの描写が欲しかった。
途中までの発言や行動に比べると薄く通り過ぎてしまったのが惜しい。伏線に応えるものを期待してしまいました。
細かいところながら、八重子さんが何年も?ずっと抱いているはずの同じぬいぐるみの新品感。風呂に入っている娘のフルメイク。両親共に教員の娘の設定にして足元の行儀の悪さ!食事マナーにも絶句。注いだビールに泡が皆無。ライティングで演技よりも目立つ喪服の袖シワ。白髪の仕上げの雑さが露骨に目立つサイドからわざわざ撮る。次女の披露宴シーンが不自然。講演シーンの聴衆反応へのカメラが多すぎてダレる。脚の弱った人が長時間しゃがんだ姿勢を保てるものか?
監督には安易に周囲の反応(泣くとか頷く等)を映すことで描写とせずに、人物の内面をえぐり映す別の手段と掘り下げを期待したい。
例えば、長女と次女を会話させることで、近くで子供から見る両親それぞれの姿、心配でも駆けつけられない働き世代のジレンマ、兄弟間でも公平な負担は出来ない現実も描けるのでは。
親の病身につけ込むような婚約者の挨拶訪問シーンは最初に御見舞いの一言もなく社会人の振る舞いとして不自然に思う。
道行く人の優しいようで素っ気ない挨拶だけでなく、親友の医師や懇意の喫茶店の店員さん等周囲の人が主人公のいない場所で漏らす本音を描けば、周囲の人がどう受け止めて会葬行列になったかの意味もより明確になるのではないか。
細部の詰め、描き込みは不十分なところがややあるものの画面には熱意が溢れている。
逆に映画を一本仕上げることの難しさを学ぶ事も出来た。
観て良かったと思う。
これからも是非価値ある原作の映像化に期待したい。