「これはこれは!」忍びの国 まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
これはこれは!
すごい!面白かった!
アイドルの忍者映画ね〜と軽い気持ちでアマプラにて鑑賞。わりとポップな雰囲気だったのに、開始早々バサッとあっけなく大野智に殺される満島真之介。「えっ…ちょっ、えーっ??」「そんな簡単に殺すか普通…嘘やん…」呆然とする私。
満島真之介は、目がキラキラしていて非常に生命力を感じる顔立ちで、大勢の忍者たちが居ても程よく目立ちます。それが無惨に殺され、血まみれで息絶えるアップのシーンでは、目が光を失い、命が消えていく感じがよく出ていて、序盤だけしか登場しないのに印象に残るところが、良い配役だなと感じました。
人の命を何とも思わない、忍びの国のはじまり、はじまり。
ブラタモリで知ったのですが、伊賀忍者というのは元々土地の奪い合いから生まれたそうです。
昔は琵琶湖は伊賀市付近、三重県にありました。地殻変動で少しずつ北へ移動し、現在の滋賀県に移ったと記憶しています。
大昔の琵琶湖の周りは、山が険しく平地が極端に少なかった為、人々は田畑を作ることの出来る、より良い土地を求めました。山の上の方は水を引くのが難しく、下過ぎると水害の不安があるので、人気なのは山のへりの、絶妙な高さにある土地でした。そこで百姓たちは隣近所にこっそり忍び込み、他人の暮らしぶりを偵察します。◯◯さんの家は今年は豊作だったとか、△△さんは病気でもうすぐ亡くなるから土地が空くだろうとか、情報を仕入れたり、噂を流したりして、貴重な土地を奪い合うのです。農家の家の周りには、高い土壁のようなもの(土塁)が作られ、外部からの侵入を防ぐようになっています。侵入する時は、この壁に鎖鎌などを引っかけてよじ登ります(忍者の武器は農具を改良したものが多い)。こういう地域間闘争が500年も続き、武装農民となり、修験道が盛んだったこともあって、やがて忍者へと発展していったそうです。
これを知った時は心底ゾッとしました。
本当に普通の人達が、己の利益の為にお互いの腹を探り合うことから始まったのですから。ゲリラ戦を展開し、織田軍がかなり制圧に手こずった話も放送されていました。
小山ゆうの「あずみ」を読んだ時は、衝撃的でした。忍びの世界はとことん、暗い。そういう暗さを、「NINJA!」と喜んでくれる海外勢はどれだけ知っているだろうか。お、教えたい…ウズウズ。良いリアクションしてくれそう。
無門役の大野智が、毒を塗った手裏剣をよける練習をしている子どもを見て「さらわれて来たんだ、可哀想に」とぽつりと言うシーンがあります。ここで「あれっ?無門は可哀想と感じる人間らしい心があるのか?」と鑑賞者に少し引っ掛かりを残して、話は先へ進みます。
鈴木亮平と大野くんの決闘シーン(川)は、それはもう迫力がありました!素晴らしかった…!これは必見です!大野くんて、あんな顔するんですね。普段とのギャップが凄いのよ。これはファンでなくてもイチコロですよ。
このシーンがあまりにも良過ぎて、翌日ここだけ3回くらい見ました。巻き戻したり、早送りしたり、止めて再生して、また止めてを繰り返し…そんでまたボロっボロ泣き。なんなんでしょうね、すごく感動するんです、このシーン。
無門が、織田信雄に「首は預けておく」と言って去ろうとした際、他の忍者たちから反発を受けるシーンがあります。「何か文句あるのか」と静かに一言だけで周囲を黙らせるところは、痺れましたね〜〜。男に生まれたら一度は言ってみたいセリフです。命の取り合いをする群れで、頂点に君臨する男しか吐けない。
最後、お国役の石原さとみが死んでしまうシーンは凄く良かったです。吹き矢に倒れ、息も絶え絶えのお国から、あなたの本当の名を教えて欲しいと乞われて、無門は名は無いと、分からないのだと涙を流しながら答えます。無門も幼い頃さらわれて来たということが、ここで初めて明かされます。お国が、「可哀想に…可哀想に…」と何度も言いながら、無門を哀れんで亡くなります。人間を人間たらしめているものは憐憫の情であると、作品を通して言いたいんだなと強く伝わって来るシーンです。無門がお国にベタ惚れだったことは痛いほど分かっているので、見ていてここはかなりキツい。心がえぐられるようです。
お国は、あちらの国の人。ちゃんと人間らしい心を持っている人。タイトルは「忍びの国」なので、彼女の名前が「お国」なのは決して偶然ではなく、そういう意味合いがあるのだろうと勝手に思っています。
忍者という題材は色が強いので、方向性が大体決まってきちゃうことが多いですが、これだけ軽さと重さ両方満足させてくれる映画はめったにありません。「忍術」って、扱い方間違えると危険ですからね笑 アクションシーンでキャラクターたちが時々カメラ目線になるのも、すごく可愛いし新鮮。そして登場する男たちが皆んなカッコよかったです!女優さん達も皆さんハマってて良かった。武将たちの訓練された整然とした戦い方と、忍者たちの得体の知れない不気味さの対比も面白かったし、スピリットがお互い真逆(一応、表向きは)なので、それも興味深いです。
ちなみに、北畠の茶入れ、小茄子をググったら本当にありました。映画よりツヤっとしている感じ。実物見てみたいわ〜。
「伊賀」という響きは、何とも心乱れる魅力がありますね。漫画が原作との事、ぜひ読んでみたいです。