劇場公開日 2017年7月1日

「いつまでも頭をよぎって離れないのは無門の静かな人としての変わり様だった」忍びの国 快慶さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0いつまでも頭をよぎって離れないのは無門の静かな人としての変わり様だった

2017年7月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

知的

さらーっと観たら、この映画の深さは分からない。

なんかスッキリしない。見落としていた感がある。

そう、もう一回観てみよう。新たな発見がある。面白い。

又観てみようっと思わせる今までに味わったことのない映画だった。

今までにはない時代物。予告の軽いイメージとは違って良い意味で裏切られた。

この裏切られた感を監督は狙ったのか・・・。良い作品を多く観たい自分としてはこの夏この作品に出会えたことが大当たりだった。

見応えあるリアクションは勿論のこと、戦国の世、心揺さぶる人の心情も秀逸 。

正統派の圧倒的な格好良さ伊勢谷大膳はしっかりと魅了し、鈴木平兵衛は忍として生まれ、人として願う葛藤は哀しくもある。偉大な父を持った知念織田信雄のへたれぶりも良い意味好演。歴史上重要な存在感の北畠に國村隼、マキタスポーツ左京亮の中間管理職的な感じ、伊賀の上忍の現代にもつながる人の奥深い欲もあわせ、まっすぐに人を表現した映画だった。

その中でもなんと言っても、清涼感を与え場内を一変させたのは、石原お国との夫婦愛だった。劇場内が一体化してくすっと笑っているのだ。観覧者を脱力させたと思いきや、あの石原お国の背筋が冷たくなりそうな睨みともいうべき眼差しをご覧あれ〜〜こんな良いものが見られるとは・・・・とお得な気持ちになるに違いない。夫婦のシーンがそれほど多くはないが、見えない無門お国夫婦の結びつき、叱咤激励する石原お国とのやりとり、そしてこれから先のお互いを想う無門お国夫婦の深い愛が、より一層、待ち受けるラストに輝きを持たせ心にささる。

人は大切なものに出会い心が変わりゆく、大切なものを無くしてから、痛みが深いからこその心の揺れ、変化が見る者の心を惹き付ける。終盤はスクリーンから釘付けでこの作品の醍醐味である。また、ナレーションの山崎努さんにつながるメッセージ性も細かい。つながったその後に想像力を膨らまずににはいられない。

虎狼の輩である忍びの無門 人を難なく殺すダークヒーローであり観覧者として軽く共感して観ることは出来ない。正当派の大膳や、葛藤する平兵衛に心奪われがちだ。だが、時が経っても心に忍んできて、いつまでも頭をよぎって離れないのは無門の静かな人としての変わり様だった。主人公、大野無門の表情、裏に見え隠れする影、孤独、哀しみが、静かに心に浸みた。聞き所でのあの張った声、刃のような眼、・・・あの魂の叫びは、今振り返ってもぞくっと背筋を緊張させる。

主演の大野智氏、まだまだ色んな引き出しを持っているのではと想像する。歳を重ねられ、心情の変化の多い超難易度の高い作品等もお目にかかれたらと・・・今後の楽しみが増えた!・・(期待)

快慶